青木重幸

青木 重幸

日本の生物学者。進化生物学、動物行動学、生物社会学を専門とし、立正大学経済学部教授を務める。アブラムシが示す特異な社会性に関する画期的な研究で知られている。

研究内容と主要な業績

青木重幸氏の最も著名な業績は、アブラムシに見られる特殊なカースト構造の発見である。具体的には、ボタンヅルワタムシという種類において、生殖能力を持たない「兵隊」として機能する個体群が存在することを世界に先駆けて明らかにした。この兵隊カーストは、捕食者からの防衛や巣の維持といった役割を担い、自身の繁殖機会を放棄して集団の生存に貢献するという、高度な社会性の一形態を示している。アブラムシのような微小な昆虫において、このような利他的行動を伴う真社会性（またはそれに類する社会性）が確認されたことは、当時の生物学界に大きな衝撃を与えた。

この発見は、生物の社会性進化に関する理論、特に血縁選択説の理解に重要な示唆を与えた。血縁選択説は、近縁個体を助ける行動が、その行動を行う個体自身の繁殖成功を高めなくても、遺伝子の包括適応度を高めることによって進化しうるという理論である。アブラムシの兵隊カーストは、血縁度の高いコロニー内で自己犠牲的な行動を示す典型的な例として、この理論の検証や発展において重要なモデルケースとなった。

この画期的な研究の経緯や詳細について記した著書『兵隊を持ったアブラムシ』は、1984年にどうぶつ社から刊行され、その科学的な内容と平易な解説が評価され、第1回講談社出版文化賞科学出版賞を受賞した。

経歴

青木重幸氏は1950年に神奈川県で生まれた。北海道大学農学部で学び、1972年に卒業。その後、同大学の大学院農学研究科に進学し、アブラムシの社会性に関する研究を深めた。1980年に博士課程を修了し、「アブラムシの兵個体に関する研究」で北海道大学から農学博士の学位を取得した。

大学院修了後、研究職としてのキャリアを開始。1983年に立正大学教養部の講師に着任した。その後、1986年に助教授、1991年には教授へと昇任した。1995年からは、同学部の改組に伴い、経済学部教授として引き続き教鞭を執り、研究活動を行った。

受賞歴

アブラムシ研究の成果や教育・研究への貢献に対し、いくつかの賞を受けている。

1985年: 講談社出版文化賞科学出版賞（著書『兵隊を持ったアブラムシ』に対して）
2009年: 立正大学蘊奥賞
2014年: 日本昆虫学会学会賞

所属学会

以下の学会に所属し、研究成果の発表や学術交流を行っている。

日本進化学会
日本応用動物昆虫学会
日本昆虫学会

著作および分担執筆

単著以外にも、専門分野に関するいくつかの書籍で分担執筆を行っている。

『アブラムシの生物学』（共著、東京大学出版会 1990）：生活環や社会性に関する章を担当。
『森の虫の100不思議』（共著、日本林業技術協会 1991）
『原色日本虫えい図鑑』（分担執筆、全国農村教育教会 1996）：タマワタムシ科およびアブラムシ科の一部を担当。

学術的背景

青木氏の研究は、ウィリアム・ドナルド・ハミルトンらによって提唱された血縁選択説や、アリ、ハチ、シロアリなどで知られる真社会性という概念と深く関連している。アブラムシにおける兵隊カーストの発見は、これらの社会性進化理論が多様な生物群に適用可能であることを示し、特に真社会性の定義や進化経路に関する議論に新たな視点をもたらした。

青木氏の研究は、昆虫の多様な生態や行動を、進化生物学的な視点から深く理解することの重要性を示しており、多くの研究者に影響を与えている。

（注：本記事は公開情報を基に記述しています。論文等の詳細については、国立情報学研究所などの学術データベースをご参照ください。）*

もう一度検索