青毛

青毛：漆黒の馬の毛色

青毛（あおげ）は、馬の毛色の中でも特に深い黒色を呈する毛色です。全身がほぼ完全に黒く染まっており、他の毛色と比べて際立って黒いことが特徴です。この深みのある黒色は、メラニン色素、特にエウメラニンの過剰な生成によるものです。そのため、青毛の馬は、皮膚や毛髪に至るまで全身が黒く見えるのです。

青毛の特性と判別

青毛は、その名の通り、濃い青みを帯びた黒色をしています。しかし、長毛の部分はやや茶色みを帯びる場合があり、また、白斑や白毛が生えている部分はその部分だけ白い毛になります。青毛は様々な馬の品種で見られますが、比較的稀な毛色であり、サラブレッドやクォーターホースでは、その出現率は1%以下とされています。

青毛と混同されやすい毛色に青鹿毛があります。青鹿毛は、鼻や目の周り、臀部などが茶色みを帯びているのに対し、青毛はこれらの部分も完全に黒いため、見分けることができます。黒鹿毛や栃栗毛と間違われる場合もありますので、注意が必要です。これらの毛色との違いは、メラニン色素の量や分布の違いによって生じます。

青毛の発現機構：遺伝子の役割

青毛の発現には、アグーチシグナル蛋白（ASIP）遺伝子の変異が大きく関わっています。ASIP遺伝子は、メラニン細胞におけるメラニン合成のバランスを制御する役割を持つ遺伝子です。通常、ASIPはメラニン細胞刺激ホルモン（MSH）の働きを抑制し、エウメラニンの過剰生産を防いでいます。

しかし、青毛の馬では、ASIP遺伝子が変異しているため、その機能が失われています。そのため、MSHの働きが阻害されず、メラニン細胞はエウメラニンを過剰に生成します。このエウメラニンの過剰生成が、青毛の馬の全身を真っ黒に染める原因となっています。

ASIP遺伝子以外の毛色関連遺伝子については、基本的には鹿毛と同じです。ただし、栗毛系の毛色のようにMSH受容体（MC1R）の機能が失われている場合、ASIP-MSH系の制御が効かなくなり、ASIP遺伝子の変異が毛色に影響を与えなくなります。また、芦毛や白毛の遺伝子を持つ場合、それらの遺伝子が優先されるため、青毛は発現しません。さらに、青毛を原毛色とする馬に、クリーム様希釈遺伝子（佐目毛遺伝子）が存在する場合、Smoky Cream（クリーム様希釈遺伝子がホモ接合体）やSmoky Black（ヘテロ接合体）といった毛色が現れます。

まとめ：稀少で魅力的な毛色

青毛は、その深い黒色と稀少性から、多くの馬愛好家にとって魅力的な毛色です。その発現機構には、ASIP遺伝子の変異が深く関わっており、遺伝学的な観点からも興味深い毛色と言えます。他の毛色との違いを理解し、その美しい漆黒の輝きを堪能することが大切です。 青毛の遺伝学的背景を理解することで、馬の毛色の多様性に対する理解が深まり、より一層馬への愛着を育むことができるでしょう。

参考文献

Rieder, S., Taourit, S., Mariat, D., Langlois, B., Guérin, G. (2001). “Mutations in the agouti (ASIP), the extension (MC1R), and the brown (TYRP1) loci and their association to coat color phenotypes in horses (Equus caballus)”. Mammalian Genome 12 (6): 450-5. doi:10.1007/s003350020017.

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