靖国丸

靖国丸（やすくにまる）

靖国丸は、日本郵船が運航する貨客船であり、三菱重工業長崎造船所によって1930年に建造されました。この船名は、東京・九段にある靖国神社から取られたものです。靖国丸は、他社が保持する同名の船舶とは関係がありません。

建造と航路

靖国丸は、1930年に竣工し、日本郵船の横浜から欧州への航路に投入されました。この航路は、日本から名古屋、大阪、神戸、門司、上海、さらには香港、シンガポール、ペナン、コロンボなどを経由し、最終的にロンドンまで延びる長大なものでした。周遊航路には、多数の貨客船が就航しており、特に大正時代に建造された船舶との連携があったため、靖国丸はその一翼を担うこととなりました。

日本郵船では、老朽化した船舶を新しい船に置き換える高品質な輸送手段を目指しており、靖国丸はその一環として建造されました。1929年からの工事を経て、1930年の8月31日には正式に引き渡され、航行を開始しました。

特徴

靖国丸は、インド洋やスエズ運河、地中海を経由するため、最先端の空調と空気循環システムを備えており、乗客の快適さを考慮した設計がされています。また、当初は巡航速度が18ノットとされていたものの、日本政府の指示により国産技術に基づく艦船エンジンを使用することとなり、巡航速度は15ノットに変更されました。

欧州航路での活動

靖国丸は、1930年の秋以降、欧州航路での運航を開始し、数多くの寄港地を経て横浜への帰港を果たしました。1933年にはジャンク船から乗員を救助するなど、艦船としての役割も果たしました。さらに、1936年にはベルリンオリンピックの際に日本のオリンピック選手団を輸送するにも使われました。

戦時の徴用と特設潜水母艦への転用

1940年に再び徴用されてからは、特設潜水母艦としての役割を担うこととなります。呉海軍工廠で艤装工事を行い、南太平洋において艦隊を支援する任務に従事しました。また、輸送任務にも参加し、陸軍部隊の輸送やそれに関連する任務も果たしていました。

没するまでの運命

しかし、1944年1月31日にアメリカの潜水艦「トリガー」の攻撃を受け、靖国丸は沈没する運命をたどりました。この攻撃により、乗員や便乗者、多くの人々が命を失うこととなりました。また、沈没後は正式に除籍されたのは同年3月のことです。これにより、靖国丸は歴史の中で重要な役割を果たした艦船として記憶されることとなります。

靖国丸の姿は、戦前の貿易船としての歴史と、戦時中の艦船としての活動を併せ持っており、当時の海運業界の動向や技術の発展を反映した存在であります。

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