靖安軍

靖安軍（せいあんぐん）とは

靖安軍は、満州国軍に存在した軍の一つで、その前身は「靖安遊撃隊」です。満州事変直後、関東軍の指導のもと、日本人と満州人の混成部隊として編成されました。当初は、満州各地での匪賊討伐作戦に従事していましたが、日中戦争の勃発とともに華北へ外征、国防軍として第1師に改編されました。

設立の背景

満州事変勃発直後、関東軍は兵力不足に悩まされていました。司令部の警備すら手薄な状況を打開するため、日清・日露戦争時代の満州義軍や永沼挺身隊の事例を参考に、日本人を中核とした日本人・満州人混成部隊が編成されることになりました。

1931年10月中旬、関東軍参謀の小松己三雄騎兵少佐の指導のもと、「靖安遊撃隊」が奉天で編成されました。1932年7月に編成が完了すると、奉天省自治政府の直轄部隊となり、司令には和田勁（日本陸軍予備役中尉、満州国軍陸軍少将）が就任しました。顧問には有村宗吾、参謀長には宮本新上校が任命され、約3,000名の人員を擁し、奉天の大西辺門外と東大営に駐屯しました。幹部の3分の2は日本人で、日本から17、18歳の中学卒業生を募集し、少年隊・少年候補生隊を編成、第2軍に配属しました。少年隊は部隊の後継者として教育を受けました。また、靖安遊撃隊は軍服の袖に紅布を付けていたため、「紅袖隊（赤袖隊）」とも呼ばれていました。

靖安軍への改編

1932年、靖安遊撃隊は軍政部に接収され、満州国軍の隷下に編入。「靖安軍」と改称しました。靖安遊撃隊の幹部は特別待遇を望み、莫大な経費を要求しましたが、満州国顧問団は、日本軍の予備役中尉に過ぎない和田司令の統率力を疑問視。軍事顧問の佐々木到一大佐は、軍政部の改造案を示し、「要求に従うか、武装解除か」を迫りました。一部日系幹部は憤慨しましたが、最終的には改造に同意しました。給与は他の部隊と同等になり、「紅袖」などの標識は廃止され、襟章が定められました。軍司令官には藤井重郎少将が着任し、歩兵第1、第2団、騎兵団、砲兵団が新たに編成され、歩兵第1団長には美崎丈平上校が就任し、藤井司令官を補佐しました。靖安軍は、満州国内の各地で匪賊討伐作戦に従事しました。

日中戦争とその後

1937年7月7日に日中戦争が勃発すると、中国軍第84師が長城線を越えて国境付近に侵入。関東軍は満州国軍の出動を要請し、8月1日、承徳市において靖安軍を中核とした「熱河支隊」（支隊長：藤井重郎少将）が編成されました。熱河支隊は長城の制高地点に布陣する中国軍を攻撃しましたが、8月21日に藤井支隊長が戦死するなど、戦闘初期は苦戦を強いられました。その後、美崎上校が支隊長となり陣容を立て直し、中国軍を撃退してチャハルへ進撃しました。支隊は兵站線の警備や掃討戦を行い、1938年に凱旋しました（戦闘回数19回、戦死傷60名余、行方不明143名）。

靖安軍は、後に満州国軍における国防軍として、第1師（師長：秋山秀少将）に改編されました。第1師は錦県に駐屯していましたが、1945年1月に一部部隊（歩兵第37団）が鉄石部隊として華北の冀東地区に派遣され、7月15日には陣地構築中の部隊を錦県に残し勃利に移駐。8月9日のソ連侵攻に対し戦闘準備命令が下されましたが、戦意喪失した兵士の離隊や反乱が発生。第1師の日系軍官らはハルビンに向けて南下しましたが、8月26日に終戦を迎え、師長は部隊の解散を宣言しました。

編制

1933年（大同2年）1月時の編制は以下の通りです。

靖安軍司令部 - 司令官：藤井重郎少将
歩兵第1団 - 長：美崎丈平上校 （本部、歩兵営×3、機関銃連、迫撃砲連、補充連）
歩兵第2団 - 長：赤澤三六上校 （本部、歩兵営×3、機関銃連、軽迫連、補充連）
騎兵団 - 長：山崎積上校 （本部、騎兵連×3、機関銃連、補充連）
砲兵団 - 長：柴田潤人中校 （本部、砲兵連×2）
衛隊、汽車班、軍犬班、軍鳩班


1945年時の編制は、第11軍管区（司令官：郭若林中将）の指揮下でした。

第1師 - 師長：秋山秀少将
歩兵第36団、歩兵第37団（華北へ派遣）、騎兵第45団
第1師砲兵団
師通信連、師輜重隊、師高射砲排、師無線電台、師鳩通信班


靖安軍は、満州国軍の中でも特異な経緯をたどった部隊であり、その歴史は満州国の成立と崩壊を象徴するものでもあります。

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