非現実の王国で

非現実の王国で

『非現実の王国で』は、ヘンリー・ダーガーが19歳のころから執筆を続け、約60年後に完成した物語です。正式なタイトルは『ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語』と長大で、創作された内容も非常に壮大です。この作品は、アウトサイダー・アートの代表的な例として語られ、時には「世界一長い長編小説」としても知られています。

概要

ダーガーは、彼の全生涯にわたってこの物語を秘密裏に執筆していました。彼が亡くなる半年ほど前、アパートの家主でありアーティストでもあるネイサン・ラーナーが彼の部屋を訪れた際、300枚を超える挿絵と15,000ページ以上にわたるテキストが発見されることになります。それまで、ダーガーはその存在を明らかにすることなく、持ち物をどうするか尋ねられても「何でも好きにしてくれ」とだけ答えていたと言われています。部屋には、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』や、ライマン・フランク・ボームの『オズの魔法使い』など、少女の冒険譚やキリスト教に関する書物が残されており、これらが彼の創作の参考にされたと思われます。

作品を発表する際、ラーナーはダーガーが描いた約100枚の挿絵を画廊や個人のコレクターに販売し、残りを美術館に寄贈しました。ダーガーの部屋は現在博物館として保存されており、物語の原文と共に公開されています。ただし、その壮大さから、作品全体が刊行されたことはまだありません。ダーガーは物語を15冊の冊子にまとめ、最初の7冊には自ら手を加えて装丁しましたが、残りの8冊は縛ったままの状態であり、物語の完結もその中に含まれています。

物語の内容

物語は、架空の国家『グランデリニア』における子供奴隷制と、カトリック国家『アビエニア』との戦争を描いています。この戦争を通して、物語の主人公であるヴィヴィアン姉妹は数々の試練に直面し、敵に捕まりながらも勇気と知恵を駆使して脱出します。そして、彼女たちの行く手には、彼女たちを守る巨大なドラゴン『ブレンギンズ』が立ちはだかり、最終的には勝利を収めるのです。

挿絵の魅力

ダーガーは、自ら357枚に及ぶ挿絵を描きました。それらの中には、ストーリーの特定の場面を表現したものが多いですが、独自のシーンを描いたものもあり、その長さは時に3メートルを超えます。彼は美術教育を受けていなかったにもかかわらず、巧みな表現力で物語を視覚化しました。主人公たちはしばしば裸で描かれ、苛酷な運命に遭遇する一方で、男性的な攻撃性を表現するために、性的な要素が含まれているとも言われており、ダーガーの背景や想像力が常に反映されています。

影響を受けた事件

ダーガーは、19歳の時にシカゴで起きたエルシー・パローベクという少女の誘拐事件に強い影響を受けました。彼はその事件に関する新聞記事を保管していましたが、失われてしまい、その後の創作活動にはその心痛が影を落としていると言われています。このことは『非現実の王国で』にも反映され、主人公たちの運命を暗示するキャラクターが登場しました。

このように、『非現実の王国で』は、単なる物語を越え、ヘンリー・ダーガーの内面的な世界や、彼が直面した現実的な問題、社会に対する批判などが複雑に絡み合った作品なのです。

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