アウトサイダー・アート

アウトサイダー・アート：社会の枠を超えた表現

アウトサイダー・アートは、従来の美術教育や社会規範から離れた場所で制作された芸術作品を指します。西洋美術の伝統的な教育を受けていない人々、例えば、精神疾患を持つ人々、社会から孤立した人々、あるいは社会の主流から外れた人々などが制作した作品が、その主要な部分を占めています。しかし、近年ではその定義は拡大し、プリミティブアートやフォークアート、民族芸術なども含む包括的な概念として捉えられています。

アール・ブリュットからアウトサイダー・アートへ

アウトサイダー・アートという概念は、フランスの画家ジャン・デュビュッフェが1945年に提唱した「アール・ブリュット（生の芸術）」という概念に端を発します。当初は、強迫観念や精神疾患を持つ人々の作品に焦点を当てていましたが、イギリスの美術評論家ロジャー・カーディナルが1972年に「アウトサイダー・アート」という用語を用いて、その概念をさらに拡張しました。カーディナルは、美術教育を受けていない、社会の外側に位置する全ての個人による芸術表現を包含するより広範な概念として、この用語を定義しました。

歴史的背景と発展

アール・ブリュット、そしてアウトサイダー・アートという概念が生まれた背景には、19世紀以降の西洋美術におけるアカデミー制度の隆盛と、それに伴う美術教育の標準化があります。アカデミーは、特定の技法や様式を重視し、それ以外の表現を軽視する傾向がありました。しかし、19世紀後半になると、ゴッホやゴーギャンといった革新的な画家たちが、従来の美術規範から離れ、独自の表現を模索するようになります。彼らの活動は、社会から逸脱した表現、例えば精神疾患を持つ人々の芸術にも関心が向けられる契機となりました。

スイスの精神科医ヴァルター・モルゲンターラーは、精神病院の患者の作品に注目し、その芸術性を研究しました。デュビュッフェはモルゲンターラーの研究や、精神病院の患者の作品に直接触れることで、アール・ブリュットの概念を確立しました。彼は自身の設立した「アール・ブリュット館」でコレクションを公開し、展覧会を開催することで、アール・ブリュットの作品を広く世に知らしめました。

カーディナルによる「アウトサイダー・アート」の提唱は、アール・ブリュットの概念を超え、さらに幅広い表現を取り込むものでした。プリミティブアート、民族芸術、そして社会の周辺部に位置する人々の作品などが、アウトサイダー・アートに含まれるようになりました。

アウトサイダー・アートの普及と認知

1990年代には、モーリス・タックマンが企画した「パラレル・ヴィジョン」展が、世界各地を巡回し、アウトサイダー・アートの認知度を飛躍的に高めました。この展覧会では、精神疾患を持つ人々の作品だけでなく、様々な文化背景を持つ人々の作品も展示され、アウトサイダー・アートの多様性が示されました。

日本においても、1993年の世田谷[[美術館]]での「パラレル・ヴィジョン」展の開催や、近年における海外での日本のアウトサイダー・アートの展示、そして東京パラリンピックなどを通して、アウトサイダー・アートへの関心が高まっています。

アウトサイダー・アートと障害者アート

日本では、アウトサイダー・アートというと、知的障害者や精神障害者による作品を思い浮かべる人が多いです。確かに、障害者によるアート活動はアウトサイダー・アートの一部を形成していますが、アウトサイダー・アートは、障害者アートに限定されるものではありません。

アウトサイダー・アートは、社会から孤立した、または主流から外れた人々による、あらゆる芸術表現を包含する広範な概念です。刑務所などで創作活動を開始した人々、独学で創作を続ける人々など、様々な背景を持つ人々の作品がアウトサイダー・アートに含まれています。

各国における状況と議論

アウトサイダー・アートに対する認識や解釈は、国や地域によって異なります。欧州では、主に精神疾患を持つ人々の作品に焦点が当てられることが多い一方、アメリカでは、フォークアートや民族芸術など、より広範な表現を含めて捉えられる傾向があります。

また、ゴッホなど、歴史的に著名な画家の作品をアウトサイダー・アートとみなすかどうかも、議論の対象となっています。ゴッホは精神疾患を抱えていたことは事実ですが、一方で彼はプロの画家として活動しており、アウトサイダー・アートの定義に合致するかどうかは、解釈が分かれるところです。

日本のアウトサイダー・アート

日本では、当初「アウトサイダー・アート」という用語が用いられていましたが、近年では「アール・ブリュット」という用語も広く使われるようになっています。「アウトサイダー・アート」という用語は、障害者アートとの関連で誤解を生む可能性があるため、「アール・ブリュット」が好まれる傾向にあります。また、「エイブル・アート」という用語も、障害者アートを表す言葉として使われてきました。

日本のアウトサイダー・アートは、宗教的な作品や、独自の表現を追求する人々による作品など、多様な作品を含んでいます。大本教の出口なおの「おふでさき」や、出口王仁三郎の耀盌などは、日本におけるアウトサイダー・アートの代表的な例として挙げられます。

まとめ

アウトサイダー・アートは、社会の枠組みを超えた、多様で独自性の高い芸術表現です。その概念は時代とともに変容し、現在もなお発展を続けています。今後、アウトサイダー・アートは、社会における多様性の理解や、芸術表現の新たな可能性を探る上で、重要な役割を果たしていくでしょう。

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