非結核性抗酸菌症

非結核性抗酸菌症（NTM）とは

非結核性抗酸菌症（Nontuberculous Mycobacterial infection, NTM）は、結核菌と癩菌を除く抗酸菌、すなわち非結核性抗酸菌による感染症の総称です。以前は非定型抗酸菌症とも呼ばれていました。近年、患者数は増加傾向にあり、特に肺の感染症は肺MAC症（マック症）として知られています。

定義

非結核性抗酸菌とは、結核菌群以外の培養可能な抗酸菌を指します。これらの菌による感染症が非結核性抗酸菌症と定義されます。かつては、結核菌による感染症が定型的、それ以外の抗酸菌による感染症が非定型と分類されていましたが、近年、多くの抗酸菌による感染症が非結核性抗酸菌症として扱われるようになっています。

疫学

非結核性抗酸菌は環境中に広く分布しており、珍しい感染症ではありません。年間5000人以上が新たに感染しており、2016年には過去7年間で患者数が2.6倍に増加したとの報告もあります。また、後天性免疫不全症候群（AIDS）の患者に発症しやすい傾向があります。

病因

以前は分類が困難だった抗酸菌ですが、PCR法やDNAシークエンシングの普及により、多くの亜種が発見されています。研究が進むにつれて、結核菌と癩菌が特殊な菌であることが明らかになり、それ以外の抗酸菌による感染症は非結核性抗酸菌症として分類されるようになりました。

日本においては、Mycobacterium avium（マイコバクテリウム・アビウム）とMycobacterium intracellulare（マイコバクテリウム・イントラセルラーエ）を区別しないMycobacterium avium complex（MAC）による感染症が最も多く、全非結核性抗酸菌感染症の8割以上を占めます。次いでMycobacterium kansasii（マイコバクテリウム・カンサシ）による感染症が多く、この3菌種で9割以上を占めています。

主な原因菌

Mycobacterium avium
Mycobacterium intracellulare
Mycobacterium kansasii
Mycobacterium shinjukuense

病態

非結核性抗酸菌は、身体の様々な部位で感染症を引き起こします。特に呼吸器感染症が多く、喀血を伴うこともあり、生命に関わるため重要視されています。結核菌とは異なり、非結核性抗酸菌症は人から人への感染は起こりません。播種性非結核性抗酸菌症は、HIV感染者や化学療法を受けているなど、免疫力が低下した状態で見られることがあり、注意が必要です。また、皮膚抗酸菌症として水槽肉芽腫などがあります。関節リウマチと誤診されるケースも報告されています。

検査

患者の検体から原因菌が検出されただけでは、感染症と断定することはできません。非定型抗酸菌症研究協議会や国立療養所非定型抗酸菌症共同研究班の診断基準に従って検査を行います。

主な検査方法

PCR リアルタイムPCR: 迅速かつ特異度が高いため、主に用いられます。
DNA-DNAハイブリダイゼーション: 結核菌群と非結核性抗酸菌群の18種で菌種を同定できます。
生検: 気管支鏡・CT下肺生検、上部消化管内視鏡、皮膚生検などを行い、病理診断や培養を行います。喀痰などの検体採取が難しい場合に行われます。
喀痰塗抹: 呼吸器感染の場合、チール・ネルゼン染色や蛍光染色を行います。
抗酸菌培養: 喀痰、胃液、骨髄などを培養し、菌の増殖を観察します（4〜8週間かかります）。

治療

非[結核]]性抗酸菌症の治療は、結核と同様に複数の薬剤を組み合わせて行われることが多いです。[[イソニアジド]、[リファンピシン]、エタンブトール(EB)、ピラジナミド(PZA)、クラリスロマイシン(CAM)、レボフロキサシン(LVFX)などが使用されます。

一般的には、クラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトールによる初期治療が開始されることが多いです。薬剤感受性検査の結果によって、薬剤の組み合わせが変更されることもあります。肺MAC症の場合、キードラッグはクラリスロマイシンです。また、Mycobacterium kansasii感染症ではリファンピシンがキードラッグとなります。

参考文献

石井誠、長谷川直樹「シリーズ-感染症 ガイドラインから見た診断と治療のポイント･7 抗酸菌感染症」『臨床検査』第56巻第12号、株式会社医学書院、2012年11月、1390-1396頁
松島敏春「10.非結核性抗酸菌症」『日本内科学会雑誌』第91巻第10号、2002年、2965-2969頁

外部リンク

非結核性肺抗酸菌症 日本呼吸器学会
* 非結核性抗酸菌症の診断と治療はどうなっているか？ 生物学的製剤への対応を含めて 日本サルコイドーシス／肉芽腫性疾患学会雑誌

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