鞆ノ平武右衛門

鞆ノ平 武右衛門

鞆ノ平 武右衛門（とものひら たけえもん）は、嘉永2年9月18日（1849年11月2日）に生まれ、明治34年（1901年）11月25日に没した明治時代の著名な大相撲力士です。現在の広島県福山市にあたる備後国沼隈郡鞆の出身で、本名は村上 武右衛門。

入門時は玉垣部屋、大坂相撲時代は湊部屋に所属していましたが、後に雷部屋へ移籍しました。現役時代の体格は身長170センチメートル、体重96キログラムと、当時の力士としては決して大柄ではありませんでした。左四つからの寄りを最も得意としていました。

力士としての経歴

鞆ノ平という四股名は、故郷である鞆町に由来します。土地相撲で活躍を見せた後、明治3年（1870年）、元公卿である上田楽齋の紹介により、当時の実力者であった横綱（当時大関）梅ヶ谷藤太郎の門を叩きました。当初は大坂相撲で相撲を取っていましたが、師である梅ヶ谷の東京進出に伴い、自身も東京相撲に加わります。当初は梅の森と名乗っていましたが、後に故郷にちなんで鞆ノ平と改名し、明治4年（1871年）4月に二段目付け出しとして東京相撲での初土俵を踏みました。

大阪相撲からの加入であったため、出世には時間を要しました。新入幕を果たしたのは明治14年（1881年）5月場所のことです。翌明治15年（1882年）1月場所では西前頭筆頭の地位にありながら、当時大関であった若島権五郎と引き分けた他は勝ち星を重ね、8勝1分という優勝に相当する成績を挙げました。この活躍が評価され、翌明治16年（1883年）1月場所では最高位となる関脇へ昇進を果たしました。上背こそなかったものの、その相撲ぶりは巧者として知られ、特に明治18年（1885年）1月場所では、当時の強力な大関であった大達羽左エ門を破る金星を挙げています。

人物と引退後の波乱

鞆ノ平は土俵上での活躍だけでなく、その人柄も多くのファンに愛されました。無邪気で愛嬌があり、贔屓にする者が多かったと伝えられています。現役時代には、副業として酒屋と備後畳の店を営むなど、実業家の一面も持っていました。

幕内を通算27場所務め上げた後、明治26年（1893年）5月場所限りで土俵を去り、年寄「大嶽」を襲名しました。しかし、先代大嶽の寡婦との関係が悪化したためか、わずか1年あまりで年寄を廃業してしまいます。その後、福井県敦賀に移り、鯛網漁を営みましたが失敗に終わりました。郷里である鞆に戻った後、再び上京して相撲界への復帰運動を行いましたが、これも叶わず再び郷里に戻り、漁業に従事して晩年を過ごしました。

異種格闘技戦の伝説

日本の異種格闘技史において、鞆ノ平の名は特筆すべきエピソードとして語り継がれています。明治12年（1879年）6月頃、西洋人（米国人とも伝わる）のボクサーが、日本の「チャンピオン」である相撲力士への挑戦を公式の場、それも天覧という形で申し入れた出来事がありました。相撲界の第一人者であった横綱梅ヶ谷藤太郎（当時は大関）は、この申し出に対応に苦慮しました。

相手は身長2メートル近い大男であったのに対し、当時の日本の力士は皆170センチメートル級と、体格差は歴然としていました。公式の場である以上、応じなければなりませんが、相手の詳細が不明であり、万が一にも敗れるようなことがあれば日本の恥となりかねない。かといって断ることもできない。こうした師・梅ヶ谷の苦悩を察し、「私にお任せください」と名乗り出たのが、当時まだ十両の西四枚目であった鞆ノ平でした。

鞆ノ平は、相手の脇下にもぐりこみ、そのまま抱え上げて反り倒すという、彼独自の必殺技「鷹無双（高無双）」を持っていたと言われています。彼は師に対し「いざという時はこの鷹無双を使います」と伝え、試合への出場許可を得ました。

それまでにも外国人レスラーやボクサーが日本の力士に挑戦した例はありましたが、いずれも土俵上で相撲のルールで行われたため、力士が勝利していました。しかし、この一戦は広場で行われ、相撲のルールに縛られず、相手を倒すことだけが勝利条件という、古来の節会相撲のような形式の格闘技戦となりました。

試合が始まると、ボクサーは相撲では禁じ手であるゲンコツによる攻撃を嵐のように繰り出しました。頭から突進した鞆ノ平は強烈なアッパーを浴び、さらに回り込まれてフックを受けるなど苦戦しました。しかし、最後は渾身の力を込めて得意の「鷹無双」を繰り出し、相手を投げ飛ばして勝利を収めました。

辛くも勝利した鞆ノ平でしたが、その体は激しいダメージを負っていました。目の周りは黒ずみ、唇は切れ、全身に打撲の跡が見られたといいます。相撲界で打撲傷を指す隠語である「メリケン」は、この天覧の異種格闘技戦で鞆ノ平がボクサー（メリケン人）から受けた激しい打撃に由来するとされているほど、この試合は壮絶なものでした。

主な成績

幕内通算27場所で、97勝75敗20分11預67休の成績を残しています。

鞆ノ平のお墓は、故郷である瀬戸内海・鞆ノ浦を望む明円寺にあります。

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