韮沢靖

韮沢 靖

1963年8月26日に新潟県栃尾市（現在の長岡市）で生まれ、2016年2月2日に52歳で急逝した韮沢靖（にらさわ やすし）は、日本が世界に誇る多才なクリエイターでした。造型師、キャラクターデザイナー、イラストレーター、そして漫画家と、その肩書きは多岐にわたります。

高校卒業後、モデラーとしてのキャリアをスタートさせます。1987年、模型雑誌『HOBBY JAPAN EXTRA』に掲載されたキット改造作品がデビューとなりました。単なる模型製作に留まらず、フィギュアの原型を手がけ、その才能は立体造形の世界で高く評価されていきます。

特撮作品との関わりは、2004年の『仮面ライダー剣』でのクリーチャーデザインから本格的に始まります。この参加は、前作『仮面ライダー555』のクリーチャーデザインを担当した篠原保氏の紹介によるものでした。特に『剣』に登場する怪人、アンデッドたちのデザインは、その斬新さと緻密さで大きな注目を集めます。このデザインは高く評価され、アンデッドデザイン画集『UNDEAD GREEN BLOOD』として書籍化されるに至りました。また、東映プロデューサーである白倉伸一郎氏もその才能を認め、『仮面ライダーカブト』（2006年）、『仮面ライダー電王』（2007年）といったその後の人気シリーズでもクリーチャーデザインを任されることになります。『電王』シリーズでは、劇場版を含め複数の作品でキャラクターデザインを担当し、物語に欠かせない存在となったイマジンたちの生みの親としても知られています。

仮面ライダーシリーズ以外にも、韮沢氏の活躍の場は広がりました。2004年の映画『ゴジラ FINAL WARS』では、人気怪獣ガイガンやX星人のデザインを手がけ、往年の怪獣に新たな息吹を吹き込みました。2005年には雨宮慶太監督の特撮ドラマ『牙狼〈GARO〉』シリーズにクリーチャーデザイナーとして参加。独特の世界観を持つ同作において、魔獣たちのデザインは重要な要素であり、韮沢氏の個性が存分に発揮されました。また、2011年には篠原保氏からの誘いを受け、『海賊戦隊ゴーカイジャー』でもキャラクターデザインを手がけています。

彼のデザインの特徴は、頭蓋骨や骨格といったグロテスクでありながらも様式化されたモチーフや、左右非対称（アシンメトリー）を巧みに取り入れている点にあります。人型のクリーチャーには、苦悶や怒りを感じさせる歯を食いしばった表情を与えることが多く、その内面性を感じさせるデザインは、多くのファンに強烈な印象を与えました。特に、幼少期から熱烈なファンであったという『仮面ライダー』関連のデザインにおいては、過去のシリーズ、特に昭和ライダーの要素をリスペクトしつつ、作品ごとに共通のテーマを設定するなど、強いこだわりを持って取り組んでいたことが知られています。一方で、器物をメインモチーフとしたクリーチャーデザインは得意ではなかったと自身で語っています。

クリエイターとしての活動に加え、個展やトークライブなども積極的に開催しました。阿佐ヶ谷のギャラリーやライブハウスを舞台に、自身の作品世界を発表すると同時に、桂正和氏、寺田克也氏、竹谷隆之氏、空山基氏、内藤泰弘氏といった著名なクリエイターたちとの交流を通じて、その多角的な視点や人柄を垣間見せました。特に、2012年に開催された『海賊戦隊ゴーカイジャー』画集の発売記念トークライブや、著名な漫画家や造型師との合同トークイベントなどは、ファンにとって貴重な機会となりました。

また、模型雑誌での改造法の提唱や、漫画作品、小説の装画、ゲームキャラクターのデザインなど、活動の幅はメディアを横断していました。画集『Bitch's Life』をプロデュースし、漫画家の弐瓶勉氏が参加したことも特筆されます。

幼少期にすでにその片鱗を見せており、小学校の卒業文集には「KISSのメンバーかショッカーになりたい」と綴っていたという逸話は、彼のその後のクリエイティブな方向性を示唆しています。また、『仮面ライダー電王』のイマジンたちが、自身が意図した「怖い怪人」としてだけでなく、「可愛い」と人気を博したことに驚きを隠せなかったというエピソードは、彼の作品が意図を超えて広く受け入れられたことを物語っています。

2016年、腎不全のため惜しくもこの世を去りました。しかし、彼が生み出した個性豊かなクリーチャーやキャラクターたちは、映像作品や立体物として今もなお多くの人々に愛され、国内外のクリエイターやファンに大きな影響を与え続けています。

主な参加作品（一部抜粋）

映像作品: 『ゴジラvsビオランテ』（スーパーX2造形）、『真・仮面ライダー 序章』（バッタクリーチャー製作）、『ゴジラ FINAL WARS』（ガイガン・X星人デザイン）、『仮面ライダー剣』、『仮面ライダーカブト』、『仮面ライダー電王』各シリーズ（クリーチャーデザイン）、『牙狼〈GARO〉』シリーズ（クリーチャーデザイン）、『海賊戦隊ゴーカイジャー』（キャラクターデザイン）
ゲーム: 『Aランクサンダー 誕生編』、『エネミー・ゼロ』、『DEEP FEAR』、『真・女神転生IV』（新規悪魔デザイン）など
* 出版物: 画集『FANTASTIC CREATURE WORLD』、『CREATURE CORE』、『NIRA WORKS』、『NIRAGRAM』、『CHAMELON』、『Bitch's Life Illustration File』、『DEVILMAN THE LIST』、『仮面ライダー剣 韮沢靖 アンデッドワークス UNDEAD GREENBLOOD』など多数。漫画作品『PHANTOM CORE』、『DOESN’T』など。

もう一度検索