須賀田礒太郎

須賀田礒太郎：忘れられた才能の再発見

須賀田礒太郎（1907年11月15日 - 1952年7月5日）は、明治末期から昭和にかけて活躍した日本の作曲家です。30曲に及ぶ管弦楽作品を残しましたが、その多くは生前に日の目を見ることはありませんでした。しかし、没後約半世紀を経て、主要作品が発見されたことで、彼の才能は再評価され、その音楽は多くの人々に感動を与えています。

生い立ちと音楽への目覚め

須賀田は、1907年、横浜市で裕福な家庭に生まれました。幼少期から美術と音楽に才能を発揮し、特に音楽への関心は深く、関東学院中学に入学後、本格的に音楽の道を志すようになりました。ピアノ、声楽、ヴァイオリン、音楽理論を学び、山田耕筰や信時潔といった大家に師事し、作曲の基礎を築きました。

作曲家としての挑戦

様々な作曲技法を習得した須賀田は、1930年代から作曲コンクールに積極的に応募し始めました。交響詩「横浜」や管弦楽曲「春のおとずれ」といった初期の作品では、フランス印象派の影響が見られますが、次第にドイツ・ロマン派の技法を取り入れ、独自の作風を確立していきました。

1936年、「日本華麗絵巻」が宮内省式部職楽部主催のコンクールに入選、「祭典前奏曲」が日本放送協会の懸賞で4位入選するなど、徐々にその才能が認められるようになります。1938年には、「交響的舞曲」が新交響楽団主催のコンクールに入選し、ローマやワルシャワなど海外でも演奏されました。この頃、須賀田は「後期ロマン派の手法を身につけることが、日本の民族的な感情を芸術作品として昇華させるために不可欠である」と語っています。

戦時下の活動と「国民詩曲」

1938年、日本放送協会から作曲依頼を受け、「国民詩曲」シリーズの一環として「東北と関東」を発表しました。この作品は、日本の民謡旋律を基にしたもので、須賀田の代表作の一つとされています。戦時中は、軍隊行進曲や愛国的な題材の作品を多く作曲しましたが、その一方で、「葬送曲・追想」のような内面的な感情を吐露した作品も残しています。

戦後と忘れられた存在

終戦後、須賀田は病のため故郷の栃木県に疎開し、療養生活を送りました。戦時中の作品が再演されることはなく、中央楽壇からも忘れられていきました。しかし、そのような状況下でも、須賀田は創作活動を続け、通俗的な小品や民謡の編曲を手がけました。

1950年には、「ご飯の歌」がNHKラジオ歌謡に入選し、地元で愛唱されるようになりました。また、地域の学校の校歌や民謡も作曲し、地域の人々と音楽を通じた交流を深めました。須賀田は、自らの音楽を通して人々に希望と喜びを与えようと努めました。

前衛的な試みと幻の「第二弦楽四重奏曲」

戦前より研究していた前衛的な技法を用いて、1946年には「第二弦楽四重奏曲」を作曲しました。しかし、この作品は当時の演奏家たちに受け入れられず、初演されることなく埋もれてしまいました。この作品は、須賀田の音楽的な多様性を示す重要な作品であり、2001年にようやく初演されました。

死と楽譜の発見

須賀田は、1952年に肺結核のため45歳という若さで亡くなりました。生前に作品が評価されることはありませんでしたが、その死後、作品が収められたトランクが発見され、彼の才能が再認識されることとなりました。このトランクには、25曲の管弦楽作品、室内楽、歌曲、吹奏楽曲、ピアノ曲など、多岐にわたるジャンルの楽譜が保管されていました。

再評価とコンサート

楽譜発見後、神奈川フィルハーモニー管弦楽団によって、須賀田の作品が演奏されるようになり、2002年には「須賀田礒太郎の世界」と題したコンサートが開催され、大きな反響を呼びました。このコンサートをきっかけに、須賀田の作品は多くの人々に知られるようになり、現代音楽シーンに重要な位置を占めるようになりました。

須賀田の音楽の特徴

須賀田の音楽は、西洋音楽の技法を基盤としながらも、日本の民謡や雅楽の要素を取り入れた、独自のスタイルを持っています。初期の作品はフランス印象派の影響が見られますが、後期にはドイツ・ロマン派の重厚な響きを取り入れ、さらに前衛的な技法も取り入れるなど、多様な音楽性を備えています。彼の作品は、日本の風土と人々の感情を表現したものであり、聴く者の心を深く揺さぶります。

作品リスト（一部）

管弦楽曲

交響詩「横浜」 (1932)
交響的舞曲 (1937)
国民詩曲「東北と関東」 (1938)
交響的序曲（興亜序曲）(1939)
双龍交遊之舞 (1940)
東洋組曲「沙漠の情景」 (1941)
交響曲第1番ハ長調「フィルハーモニック・シンフォニー」(1942)
バレエ音楽「生命の律動」 (1950)
ピカソの絵 (1949)
日本舞踊組曲 (1950)

室内楽曲

ヴァイオリン・ソナタ ホ短調「ソナタ・ロマンティーク」(1935)
弦楽四重奏曲第1番 (1941)
弦楽四重奏曲第2番（無調性）(1946)

吹奏楽曲

台湾民謡による舞踏曲 (八月十五夜)(1943)
行進曲「皇軍」(1939/40)
フーガによる舞踊曲

歌曲、合唱曲

あしたも天気 (1931)
秋の月 (1931)
沙羅の花(1931)
ご飯の歌 (1950)
田舎の秋 (1937)
合唱曲集 (第一) (戦後作品,詳細年代不明)
* オペレッタ「宝石と粉挽娘」(1951)


須賀田礒太郎は、不遇の生涯を送りましたが、その音楽は今もなお多くの人々を魅了しています。彼の作品は、日本の音楽史において重要な位置を占めており、後世に受け継がれていくべき貴重な文化遺産です。

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