領議政

領議政

領議政（ヨンウィジョン）は、李氏朝鮮王朝時代に設置された中央官職の最高位に位置する役職です。国の最高意思決定機関であった議政府（ウィジョンブ）を構成する三議政（サムジョンスン）の中でも、最も上位にあたる官職であり、その品階は最高の正一品でした。現代の大韓民国においては、国務総理（ククムチョンニ）に相当する存在と言えます。

概要と地位

領議政は、議政府の長官として、左議政（チャイジョン）や右議政（ウイジョン）とともに国政を統括しました。これらの三議政は、古来の「三公」に対応することを意識した配置とされています。領議政は「領相（ヨンサン）」、「首相（ジェサン）」、「上相（サンサン）」、「領揆（ヨングェ）」といった別称でも呼ばれることがあり、その地位の高さを示しています。定員は常に1名と定められており、その選任には通常、左議政を経験した豊富な識見と経験を持つ元老級の大臣が当たることが多かったようです。品階は正一品の中でも最上級である大匡輔国崇禄大夫（テクァンボグクスンノクテブ）に叙せられる名誉ある官職でした。

歴史的変遷

領議政という役職の淵源は、議政府が設置された初期に遡ります。1401年7月に議政府が創設された当初、この最高位の官職は「領議政府事（ヨンイジョン ブサ）」と呼ばれていました。その後、約60年を経て、1466年1月に行われた官制の大規模な改編の際に、現在の「領議政」という名称へと正式に改称されました。

設置当初から、領議政は名実ともに国家の最高責任者として、国政全般を統括し、全ての官僚を代表する立場にありました。そのため、外交、内政、軍事、経済など、多岐にわたる国家の重要事案を取り仕切る役割を担っていました。しかし、その職権の範囲は時代と共に一定不変ではなく、変化を経験しました。国王のリーダーシップの強弱、議政府と実務機関である六曹（ユクチョ）との間の力関係、さらには有事対応のために設置された備辺司（ピビョンサ）といった新たな機関の台頭など、様々な政治的状況の変化に応じて、領議政の実質的な権限は変動していったのです。

兼任官職

領議政に就任した者は、その最高位の地位ゆえに、国家の重要機関の長官を兼任することが通例でした。以下のような主要な兼任官職がありました。

領経筵事（ヨンギョンヨンサ）：国王への経書講義などを司る経筵の長官
領弘文館事（ヨンホンムングァンサ）：学術研究や王の諮問に応じる弘文館の長官
領芸文館事（ヨンイェムングァンサ）：文書作成や史書編纂に関わる芸文館の長官
領春秋館事（ヨンチュンチュグァンサ）：歴史記録の編纂を担う春秋館の長官
承文院都提調（スンムンウォン ドジェジョ）：外交文書などを扱う承文院の総責任者
領観象監事（ヨングァンサンガムサ）：天文、地理、暦法などを司る観象監の長官
* 世子師（セジャサ）：王位継承者である世子の教育係

これらの兼任は、領議政が単なる行政の長に留まらず、国家の学術、歴史、教育といった文化的な側面においても最高責任者であることを示しています。

制度の終焉

領議政の制度は、朝鮮王朝が終焉を迎えるまで存続しました。しかし、1894年に断行された甲午改革（カボギョク）において、近代的な内閣制度導入の動きに伴い、名称が「議政府総理大臣（ウィジョンブ チョンニテシン）」へと変更されました。その後も、政治体制の変化に応じて「内閣総理大臣（ネガクチョンニテシン）」や単に「議政（ウィジョン）」などと名称を変えながら、最高行政官の地位は引き継がれていきました。

特記事項

王妃の父親（国舅、クック）に関する特例も存在しました。もし王妃が任命された時点で父親が正一品に達していなかった場合でも、慣例として正一品下級にあたる輔国崇禄大夫（ポグクスンノクテブ）に叙せられました。さらに、その死後には、正一品上級の大勅輔崇禄大夫（テチョクポスンノクテブ）、すなわち領議政の官職が追贈されることがありました。これは、王室の権威を高めるための措置の一つと考えられます。

歴代の領議政の中には、歴史に名を残した人物が数多くいます。特に著名なのが、約18年間という在任最長記録を持つ黄喜（ファンヒ）です。彼は約20年にわたり議政府で法を遵守し、国に貢献したことから「昇平守文（スンピョンスムン）」の宰相と称えられています。黄喜に続いて領議政を務めた河演（ハヨン）もまた、最高の評価を受けた宰相として特筆される人物です。

（本記事は、『朝鮮王朝実録』および『グローバル世界大百科事典』を参考に執筆しました。）

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