三公

三公とは

三公（さんこう）は、中国およびその影響を受けた東アジア諸国の前近代の官制において、最高位に位置する3つの官職を指します。具体的には、太師・太傅・太保の三公と、司徒・司空・司馬（大司徒・大司空・大司馬）の三公が存在します。これらの官職は、古代中国の官制を基に後世の儒学者が整理・敷衍したもので、前漢時代に制度化されてから、改廃を繰り返しながら長く続きました。

学説上の三公

三公には、官職として実際に存在したものだけでなく、学説上のものも存在します。

官職ではない三公

『書経』の一篇である「湯誥」には、堯の時代に功績があった禹、皋陶、后稷の三人が「三公」と呼ばれています。しかし、この三公は伝説上の人物であり、史実に基づかないため、後世にはあまり参照されませんでした。

太保・太傅・太師

後世に影響を与えた三公の一つに、今文尚書に由来する太師・太傅・太保の三公があります。この三公は、周の成王が幼い頃に、召公（召公奭）が太保、周公（周公旦）が太傅、太公（太公望呂尚）が太師に任命されたという故事に由来します。それぞれの役職には少保・少傅・少師が補佐として付きました。

『書経（尚書）』の「周官」では、少師・少傅・少保をまとめて三孤と呼び、実務を分担する冢宰・司徒・宗伯・司馬・司寇・司空という六卿がいたとされています。三孤と六官は同格とされ、合わせて九卿と呼び、三公と合わせて三公九卿と称されました。「周官」における三公の役割は、道を論じ、国を治め、陰陽の調和を図ることとされています。

『漢書』百官公卿表によると、三公は天子の側近として政治全体を統括する役割を担いますが、常設の官ではなく、適切な人物がいる場合にのみ任命されました。また、周の時代には、宮廷の庭に植えられた槐（えんじゅ）の木に向かって政務を行ったことから、三槐とも呼ばれました。さらに、三台星にちなんで三台とも呼ばれることもありました。

司徒・司馬・司空

もう一つの三公は、古文尚書に由来するとされる司徒・司馬・司空です。これらは西周時代に実際に存在した官職ですが、実務を分担する官であり、最高位の官職ではありませんでした。しかし、後に天子を補佐する最高位の官職とする説が登場しました。古文尚書は失われましたが、『漢書』百官公卿表では、太保・太傅・太師の三公と並べて、この説も紹介されています。三公は三司とも呼ばれますが、この呼称は一般には用いられず、儀同三司などの語に見られる程度です。

制度上の三公

前漢

前漢初期には、丞相または相国が官の全般を統括する最高位の官職であり、御史大夫が監察・政策立案を、太尉が軍事を司っていました。これを三公とするのは、後世の儒学者が学説上の三公に当てはめたものです。特に、兵権を握る太尉は、任命されなかったり、大司馬、大将軍などと改称されたりすることが多くありました。

前漢末期になると、儒教の影響力が強まり、周の時代の制度を模倣しようとする動きが活発になりました。紀元前8年には、成帝が御史大夫を大司空と改称し、丞相・大司空・大司馬の俸禄を等しくしました。その後、御史大夫への復帰や、丞相の大司徒への改称を経て、紀元前1年に大司徒・大司空・大司馬の三公が正式に定められました。

新

王莽は、前漢の制度を引き継ぎ、大司徒・大司空・大司馬の三公を設置しました。同時に、他の官職名を変更し、三公九卿の体制を整えました。この時、王莽は、周の制度ではなく、伝説上の舜帝の制度を参考にしたとされています。これは、王莽自身が舜の後裔を自称していたことと関連していると考えられています。

後漢

後漢を建国した光武帝は、前漢の制度を継承し、大司徒・大司馬・大司空を設置しました。その後、儒教の経典に合わせて、大司徒と大司空から「大」の字を取り除き、大司馬を太尉と改称しました。これにより、司徒・太尉・司空が三公となりました。

後漢時代の三公は、国政に関する政策全般を統括する役割を担いました。しかし、後漢末期に実権を握った曹操が、208年に丞相と御史大夫を復活させ、自らが丞相に就任した際に三公制は廃止されました。

それ以後

魏の成立後には三公が復活しましたが、実権は尚書などに奪われ、長老の名誉職と化しました。『魏志』には、三公に月二回の参内を義務付けるという意見が出されたことや、高柔という人物が73歳で三公に任命されたことが記録されています。その後、三省六部制が確立すると、三公は完全に名誉職となり、時代によっては再び太師・太傅・太保の3官職が三公とされることもありました。

日本における三公

日本では、律令制における太政官の長である太政大臣、左大臣、右大臣を指します。後に右大臣の下に内大臣が置かれると、太政大臣を除いた左大臣、右大臣、内大臣を指すこともありましたが、江戸時代には太政大臣を含むものと定義されました。源実朝の歌集『金槐和歌集』は、彼が三公の一つである右大臣であったことに由来します。

朝鮮半島における三公

朝鮮半島では、高麗時代に「大衛」「大司徒」「大司空」が設置され、李氏朝鮮時代には領議政・左議政・右議政の議政府を構成する「三政丞」が三公に該当しました。

参考文献

中央研究院・歴史語言研究所「漢籍電子文献資料庫」。
司馬遷著、『史記』
小竹文夫・小竹武夫訳『史記』1から8、筑摩書房、ちくま学芸文庫、1995年。
班固著、『漢書』
小竹武夫訳『漢書』1から8、筑摩書房、ちくま学芸文庫、1998年。
大庭脩監修、漢書百官公卿表研究会『『漢書』百官公卿表訳注』、朋友書店、2014年。
范曄『後漢書』
渡邉義浩訳、『後漢書』本紀一、二（早稲田文庫）、早稲田大学出版部、2022年、2023年。
戴徳著、『大戴礼記』
栗原圭介『大戴礼記』、新釈漢文大系113、明治書院、1991年。
吉野賢一「前漢末における三公制の形成について」、『九州大学東洋史論集』33巻、2005年。

関連項目

前漢丞相、相国、大司徒の一覧
後漢相国、丞相の一覧
三少：三公の直下の位。三孤ともいう。

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