顎下腺

顎下腺（がっかせん、学名: Glandula submandibularis）は、ヒトの体内に存在する主要な唾液腺、いわゆる三大唾液腺の一つとして知られています。脊椎動物全体を見ると、ヒト以外の多くの種では下顎腺（かがくせん）と呼ばれることもあります。

形態と大きさに関して、顎下腺は三大唾液腺の中で耳下腺に次ぐ大きさを持ちます。その形状はやや平らな楕円形をしており、成人では一般的に長さがおよそ2.5センチメートルから3.5センチメートル、厚みは約1.5センチメートル程度です。

体内での正確な位置は、口の底部、すなわち舌の付け根の下方にあります。具体的には、顎舌骨筋（がくぜっこつきん）という筋肉の下側、そして下顎骨（かがくこつ）と顎二腹筋（がくにふくきん）という二つの筋肉によって囲まれた三角形のくぼみ（窩）の中に収まっています。体の外側から見ると、首の浅い部分を覆う筋膜（浅頸筋膜）によって保護されている位置関係にあります。

この腺から分泌される唾液は、顎下腺管（がっかせんかん）と呼ばれる比較的長い管を通って口腔内へと運ばれます。この管の長さは約5センチメートルから6センチメートルに及びます。顎下腺管は、腺の後端から始まり、口底を形成する顎舌骨筋の後縁を回り込んでその上側に出てきます。その後、舌の下にある舌下腺（ぜっかせん）の内側を前方へ進み、最終的に舌の付け根近くにある小さな突起、舌下小丘（ぜっかしょうきゅう）に開口し、唾液を口腔内へと放出します。

組織学的な特徴を顕微鏡レベルで見てみると、顎下腺を構成する分泌細胞の大部分が漿液細胞（しょうえきさいぼう）と呼ばれる、サラサラとした唾液（漿液）を出す細胞から成り立っています。一方、粘り気のある唾液（粘液）を出す粘液細胞も含まれる混合性の部分も存在しますが、その割合は全体の一部に留まります。

腺の内部構造を詳しく観察すると、腺の実質を構成する腺小葉（せんしょうよう）の中には脂肪細胞があまり見られません。また、唾液を分泌する終末部と終末部の間にある結合組織も比較的少なく、非常に密な構造をしていることがわかります。特に漿液性の分泌が行われる部分では、腺の終末部から唾液を集める細い管である介在導管（かいざいどうかん）や線条導管（せんじょうどうかん）がよく発達しており、効率的な唾液の輸送を可能にしています。

一方、漿液細胞と粘液細胞が混在する混合性の分泌部では、特徴的な構造が見られます。粘液細胞が中心となる終末部の外側に、漿液細胞が集まって帽子をかぶったような、あるいは月の形のような構造を作ることが観察されます。これは半月（はんげつ）、またはラテン語でルヌラ（Lunula）と呼ばれ、顎下腺の組織学的特徴の一つです。粘液細胞が多くの分泌物（粘液）を細胞内に蓄えている状態では、細胞の内部を満たす分泌物のために、細胞自体の内容物である原形質や、細胞の核は平たく引き延ばされた形になり、細胞の基底部（底の部分）に押し付けられているように見えます。

このように、顎下腺はその位置、形態、そして微細な組織構造において特徴を持ち、口腔内の健康維持に不可欠な唾液の分泌において重要な役割を担っています。

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