顕浄土真実教行証文類

顕浄土真実教行証文類（けんじょうどしんじつきょうぎょうしょうもんるい）

概要

『顕浄土真実教行証文類』は、鎌倉時代初期に日本の僧侶である親鸞によって著された、浄土真宗における最も重要な聖典の一つです。全6巻から構成され、浄土真宗の教義の根幹をなす書物として位置づけられています。この書は、親鸞の師である法然が著した『選択本願念仏集』、通称『選択集』の解説書としての側面を持ち、同時にその教えの正当性を論証する役割を担っています。

略称と別称

この書は、一般的に『教行信証』（きょうぎょうしんしょう）と略称されることが多いです。この略称は室町時代の写本から見られるもので、それ以前は『教行証』と記されていました。また、『教行証文類』、『広文類』とも呼ばれることがあります。
真宗においては、その重要性から崇敬の念を込めて、本願寺派では「御本典」、大谷派では「御本書」という呼称が用いられます。

立教開宗の書

真宗教団連合は、『教行信証』が親鸞によって著されたことをもって浄土真宗の立教開宗としています。草稿本が完成したとされる元仁元年（1224年）4月15日を「真宗立教開宗記念日」と定めています。

親鸞真跡本「坂東本」

現存する唯一の親鸞自筆の『顕浄土真実教行証文類』は、真宗大谷派が所蔵する「坂東本」です。これは、親鸞の門弟である性信を開基とする坂東報恩寺に伝えられたことにちなんで名付けられました。昭和27年（1952年）に国宝に指定されており、「御草本」とも呼ばれています。
この「坂東本」は、親鸞が東国（関東）在住時代に草稿を完成させ、晩年まで推敲を重ねたものと考えられています。朱筆や墨による加筆の跡が随所に見られることから、親鸞自身が繰り返し検討を重ねたことが伺えます。
関東大震災の際には、浅草別院に保管されていた「坂東本」が、火災によって焼失の危機に瀕しましたが、金庫内に保管されていたため奇跡的に焼失を免れました。その後、東本願寺に託され、現在は国宝としての保存のため京都国立博物館に寄託されています。

「坂東本」の修復と発見

2003年から2004年にかけて「坂東本」の修復が行われました。その際、詳細な調査が行われた結果、約700ヶ所に角筆による書き込みが新たに発見されました。そのうち約400ヶ所は、重要箇所を示す「合点」と呼ばれるものでした。これらの発見は、親鸞がこの書をいかに重要視し、精緻に推敲を重ねていたかを物語っています。

内容構成

『顕浄土真実教行証文類』は、以下の構成となっています。

1. 顕浄土真実教行証文類序：通称「総序」。
2. 顕浄土真実教文類一：通称「教巻」。
3. 顕浄土真実行文類二：通称「行巻」。巻末には「正信念仏偈」（「正信偈」）が置かれています。
4. 顕浄土真実信文類序：通称「別序」。
5. 顕浄土真実信文類三：「別序」を含めて通称「信巻」。
6. 顕浄土真実証文類四：通称「証巻」。
7. 顕浄土真仏土文類五：通称「真仏土巻」。
8. 顕浄土方便化身土文類六：通称「化身土巻」。この巻は「本」と「末」から構成されています。巻末には「後序」と呼ばれる部分があります。


これらの構成を通じて、『顕浄土真実教行証文類』は、浄土真宗の教えの核心である、教え、行、信、証、仏土、そして方便化身土について詳細に論じています。親鸞の思想と、浄土真宗の教義を理解する上で欠かせない、重要な文献です。

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