風倉匠

風倉匠：ネオ・ダダの魂と、バルーンが舞う軌跡

風倉匠（1936年-2007年）は、20世紀後半の日本の前衛芸術シーンにおいて、独特の存在感を放つアーティストでした。ネオ・ダダイズム運動の中核を担い、型破りなパフォーマンスで観る者を魅了し、多くのアーティストに影響を与えた彼の生涯と作品について探っていきましょう。

幼少期から武蔵野美術学校へ

大分県大分市に生まれた風倉は、幼少期に戦争と疎開を経験します。その経験は、後の彼の作品世界にも影響を与えたと考えられます。高校時代には青年団の演劇活動に携わりながら、絵画にも取り組み始めました。1956年、武蔵野美術学校油絵科に入学。上京した彼は、下宿生活を送りながら絵画を学び、美術展への出品も重ねていきます。同時期に、砂川闘争への参加をきっかけに赤瀬川原平らとの交流が始まり、後の彼の活動に大きな影響を与えます。

ネオ・ダダへの参加と過激なパフォーマンス

1960年代に入ると、風倉はネオ・ダダイズム・オルガナイザーズに参加し、本格的な前衛芸術家としての活動をスタートさせます。彼の活動は、絵画にとどまりません。回転椅子から落ちる、バルーンを膨らませるといった、既存の芸術の概念を覆すようなハプニングやパフォーマンスを次々と展開し、観客に衝撃を与えました。1962年には土方巽とのコラボレーションによる「サドの遺言執行式」など、過激で挑発的なパフォーマンスも数多く行っています。これらのパフォーマンスは、既成概念への強烈な批判と、社会への問いかけとして、現代においても高い評価を受けています。

ハイレッドセンターと、地方への回帰

1960年代半ばには、高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之らと共にハイレッドセンターに参加し、共同制作やパフォーマンスにも参加しました。しかし、1970年代に入ると、東京での活動を離れ、北海道網走に移住。そこでフランツ・カフカの『流刑地にて』を映画化しようと試みますが、完成には至りませんでした。その後東京に戻り、様々な仕事をしながら生活を続け、1977年には長女が誕生しています。1979年には故郷の大分に戻り、絵画塾を開設。その後も、福岡市内の会社勤務などを経て、大分での生活を送るようになりました。

バルーンパフォーマンスと国際的な活動

風倉匠を語る上で欠かせないのが、バルーンを使ったパフォーマンスです。大きな黒いバルーンの中に自ら入り込み、空間を自由に動き回るそのパフォーマンスは、独特の視覚効果と、風倉自身の存在感を際立たせています。このパフォーマンスは、日本国内にとどまらず、バングラデシュのアジア美術ビエンナーレなど、国際的な舞台でも披露され、世界にその名を轟かせました。ナムジュン・パイクからも高く評価され、「世界で最も無名な有名人」と称賛されたことは有名です。

晩年と評価

晩年は肺がんと闘いながらも、創作活動を続けました。2002年には大分市美術館で個展を開催し、新作を発表しています。2007年、肺がんのため死去。彼の死後も、その作品や活動は、多くのアーティストや研究者によって高く評価され続け、現代美術史における重要な位置を占めています。赤瀬川原平は風倉の風貌を「インド人とアラブ人を混ぜて日本人にしたような顔立ち」と評し、尾辻克彦のペンネームで風倉を主人公にした小説も発表しています。吉村益信は「いざとなれば誰よりも危険なことをするのが風倉である」と述べており、その危うさと創造性の両面を併せ持った人物像が浮かび上がります。

主な作品

風倉の作品は、絵画、オブジェ、パフォーマンスと多岐に渡ります。特にパフォーマンス作品は、その過激さと独創性で高く評価されています。代表的な作品としては以下のものが挙げられます。

絵画: 「窓を結ぶ」、「夜もまた始まる」、「眼球のある空間」など
オブジェ: 「陰陽学」、「ピアノ狂詩曲」など
* パフォーマンス: 「サドの遺言執行式」、「ブリンダンガ河にバルーンを流す」など

風倉匠は、その生涯を通して、既存の枠組みにとらわれず、独自の表現方法を追求し続けました。彼の作品は、時代を超えて、私たちに多様な視点と、自由な表現の大切さを教えてくれます。彼の活動は、これからも多くのアーティストや観る者たちに影響を与え続けるでしょう。

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