吉村益信

吉村益信：前衛芸術の旗手、奔放な創造の軌跡

吉村益信（1932年-2011年）は、20世紀後半の日本美術史に特筆すべき足跡を残した美術家です。大分県出身の彼は、裕福な家庭環境で育ちながらも、17歳で青木繁の画集に感銘を受け、美術の道へと進みます。大分第一高等学校在学中は、地元の美術サークル「新世紀群」で才能を開花させ、後の盟友となる磯崎新や赤瀬川隼らと交流を深めました。

武蔵野美術学校卒業後、読売アンデパンダン展などに出品を重ね、1957年には新宿にアトリエ兼住居を構えます。白いモルタルの壁から「新宿ホワイトハウス」と呼ばれたこのアトリエは、後に彼の芸術活動の拠点となるのです。1960年、シェル美術賞を受賞するなど、画家としての地位を確立しつつあった吉村ですが、彼の名を歴史に刻むことになるのは、ここからでした。

ネオ・ダダイズム：時代の反逆児たち

1960年3月、吉村は赤瀬川原平、風倉匠、篠原有司男らと共に前衛芸術集団「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」を結成します。このグループは、既成概念を覆す過激なパフォーマンスで知られ、美術界に衝撃を与えました。銀座の街頭で全身にポスターを巻きつけて行進したり、画廊にゴム風船を大量に放つなど、従来の美術の枠を超えた活動は、たちまちマスコミの注目を集めます。

ネオ・ダダの活動は、アトリエ「新宿ホワイトハウス」を拠点に展開されました。そこでは、既存の美術概念を嘲笑うかのような、挑発的な作品群が次々と生み出されました。例えば、1961年の読売アンデパンダン展に出品された「殺打駄氏の応接室」は、大量のウィスキー瓶を使用した廃品芸術であり、彼の反骨精神を象徴する作品と言えるでしょう。また、自ら棺桶に入り、死体となるパフォーマンスも敢行するなど、その活動は過激さを増していきました。しかし、グループは吉村の結婚を機に活動を停止します。

アメリカ時代と帰国後の活躍

1962年、吉村は「新宿ホワイトハウス」を売却し、渡米します。ニューヨークでの約4年間は、石膏によるオブジェ制作に没頭。ゴードンス画廊やカスティラン画廊でのグループ展に参加するなど、精力的に活動しました。1965年には、国立近代美術館の「在外日本作家展」にも出品しています。しかし、ビザの問題により1966年に帰国することになります。

帰国後は、ネオン管を使ったライト・アートへと表現方法を転換します。1967年の個展「トランスペアレンツ・セレモニー」では、アクリルのケースに入ったネオン作品を発表。また、1968年の現代日本美術展では「反物質 ライト・オン・メビウス」が優秀賞を受賞するなど、高い評価を受けました。日本万国博覧会では、多くの施設のプロデュースやディスプレイも手がけ、その活動は多岐に渡ります。豚の剥製を用いたオブジェや、巨大な象のレプリカを使った個展「群盲撫象展」など、常に型にはまらない独創的な作品を生み出し続けました。晩年は神奈川県秦野市で創作活動を続け、2011年、78歳で多臓器不全のため逝去しました。

吉村益信の作品：多様性と実験精神

吉村益信の作品は、その多様性と実験精神に満ち溢れています。初期の油彩作品から、ネオ・ダダ時代の過激なパフォーマンス、アメリカ時代の石膏オブジェ、そして帰国後のライトアートや、廃材を用いたインスタレーションなど、その表現方法は時代と共に変化を遂げました。しかし、一貫して彼の作品には、既存の枠組みにとらわれない自由な発想と、社会への鋭い視線が感じられます。

大分市美術館、大分県立芸術会館、東京国立近代美術館、兵庫県立美術館など、多くの美術館に作品が収蔵され、彼の芸術的功績は広く認められています。吉村益信は、日本の前衛芸術史に燦然と輝く、独自の軌跡を残した美術家と言えるでしょう。彼の作品は、現代においても、私たちに多くのインスピレーションを与え続けています。

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