風流活人剱

『風流活人剱』（ふうりゅうかつじんけん）は、昭和初期に生まれ、小説、映画、そしてテレビドラマとして多角的に展開された剣豪作品です。

物語の源となるのは、小説家・野村胡堂が1933年（昭和8年）に発表した同名の剣豪小説です。この小説は、講談社の雑誌『富士』（後に『キング』に合併）において、1933年1月号から11月号にかけて連載され、読者の人気を博しました。単行本としては、第二次世界大戦後の1947年（昭和22年）に、東京の出版社である矢貴書店から刊行されています。なお、野村胡堂氏の著作権は現在も存続しているため、この小説は青空文庫では公開されていません。

この小説を原作として、翌年の1934年（昭和9年）には、山中貞雄監督の手により長編劇映画が製作・公開されました。この映画は、片岡千恵蔵プロダクションが製作し、主宰者である片岡千恵蔵自身が主演を務めたサイレントの剣戟映画です。山中貞雄監督が片岡千恵蔵プロダクションで初めてメガホンを取った作品としても知られており、公開当時には、前年に発表された小津安二郎監督の現代劇『出来ごころ』など、小津作品からの影響を受けているという指摘も見られました。監督・脚本は山中貞雄自身が担当し、撮影は吉田清太郎が行いました。約75分の上映時間を持つこの作品は、白黒、スタンダードサイズで製作され、1934年3月1日に日活配給で公開され、浅草の富士館が初回興行となりました。主な出演者には、主演の片岡千恵蔵（篠原求馬役）のほか、山田五十鈴（お京役）、田村邦男、田中春男らが名を連ねています。

しかし、残念ながら、この映画版はその大部分のフィルムが失われており、現在全貌を鑑賞することは極めて困難です。東京国立近代美術館フィルムセンターには、約31.4メートル（上映時間約68秒）のフィルム断片が現存するのみです。この断片は、玩具フィルムとして発見されたものを復元したもので、片岡千恵蔵演じる主人公が敵に立ち向かうクライマックスの剣戟シーンの一部です。失われた全編に思いを馳せさせる貴重な資料となっています。なお、映画のシナリオは、1985年刊行の『山中貞雄作品集 1』および1998年刊行の『山中貞雄作品集』に採録されており、作品内容の一部を知る手がかりとなっています。

時を経て、1962年（昭和37年）には、この『風流活人剱』がテレビ映画としてリメイクされました。東京放送（現在のTBSテレビ）が製作・放映を担当し、『近鉄金曜劇場』の枠で60分1話完結の作品として放送されました。このテレビ版は、山中貞雄監督の映画版を原作としており、脚本は、山中監督のデビュー作『磯の源太 抱寝の長脇差』を『キネマ旬報』誌上で高く評価したことで知られる岸松雄が手掛けています。演出は森伊千雄が担当し、水島道太郎、河津清三郎、芦田伸介といった当時の実力派俳優たちが出演しました。放送は1962年12月21日の20時から21時に行われました。

このように、『風流活人剱』は、野村胡堂の筆から生まれ、山中貞雄という偉大な映画監督によって映像化され、さらにテレビ時代にも蘇った、メディアミックスの先駆けとも言える剣豪作品の系譜をたどる一例です。特にフィルムがほぼ失われた映画版は、「幻の映画」として、映画史において重要な位置を占めています。

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