食糧管理制度

食糧管理制度とは

食糧管理制度は、戦時中の1942年に制定された食糧管理法（食管法）に基づき、米や麦などの主要食糧の価格や流通を政府が管理した制度です。この制度は、食糧の安定供給と価格の安定を目的としていましたが、時代とともにその役割と内容は大きく変化しました。

食糧管理法以前

食糧管理制度の萌芽は、1915年の米価調節令にまで遡ります。これは米価の急激な変動を抑制するためのものでしたが、本格的な政府による食糧流通への介入は、1921年の米穀法によって始まりました。米騒動後の米価不安定化を背景に、政府が米の買入・売渡、輸出入制限などを行うようになりました。

1933年には米穀統制法が制定され、政府が公定価格に基づき米の買入・売渡を無制限に行うようになり、1939年には米穀配給統制法によって取引所が廃止され、半官半民の日本米穀株式会社が設立されました。これにより、米の集荷機構は一元化され、政府の権限が強化されました。これが後の食糧管理制度の先駆けとなりました。

食糧管理法の制定と初期の制度

1942年、東條内閣のもとで食糧管理法が制定され、米だけでなく麦類も管理対象となりました。生産者は自家保有分以外を公定価格で政府に供出し、政府は配給通帳に基づいて消費者に配給しました。食糧営団が加工・管理を行い、その他の流通は禁止されました。しかし、実際には闇市での取引も行われていました。

戦後の食糧管理制度の変遷

終戦直後の食糧難に対応するため、1946年に食糧緊急措置令が制定されましたが、農民の反発を招き効果は薄かった。その後、1947年の食糧管理法改正で、馬鈴薯・甘藷・雑穀が対象に加えられ、食糧配給公団が設立されました。ガリオア資金による輸入食糧の補給が始まり、1948年には食糧確保臨時措置法が施行されました。

1949年には、食糧配給が農林大臣の計画のもとで行われることになり、食糧庁が設置されました。これらの整備により、食糧不足は緩和され、インフレも収束に向かいました。1950年には、芋類が主要穀物の対象から外され、指定卸売業者・小売業者を通じた販売体制に移行し、食糧配給公団は解散しました。

1952年、麦類は間接統制へと移行し、米は生産者米価と消費者米価の二重価格制が採用されましたが、これが後の食管会計の赤字を招きました。

食糧管理制度が要因となった事件・暴動

食糧管理制度の混乱期には、食糧不足や配給の不公平に対する不満から、坂町事件、七条警察署襲撃事件、富山駅前派出所襲撃事件などの暴動が起こりました。

食糧管理制度の役割の変化

1955年以降、米の豊作が続き、米価維持の必要性が薄れてきました。1960年には、生産者価格決定が所得補償方式となり、米価はインフレに応じて高騰し、他の農作物よりも優先して生産されたことで過剰供給となり、政府の在庫費用が増大しました。食生活の欧米化による米需要の低下も相まって、1967年以降は過剰米問題が深刻化しました。

1969年には、一部の良質な米を政府を通さずに流通させる自主流通米制度が始まり、減反政策も開始されました。1972年には消費者米価が自由化されました。1981年には食糧管理法が改正され、政府の役割は米流通の「統制」から「管理」へと変化し、米穀配給通帳も廃止されました。

1990年には、自主流通米の入札制度が開始され、政府管理米の割合は大幅に縮小しました。一方で、麦類は品質の低下や生産性の低迷が問題となりました。

食糧管理制度の限界

米価はインフレに応じて高騰したため、農家は米生産のリスクがなくなり供給過剰となりました。一方、売渡価格は都市生活者に配慮して低く抑えられたため、逆ザヤが発生し、食管会計は赤字が膨らみました。

消費者はより美味しい米を求めるようになり、縁故米や「ヤミ米」が流通しました。政府も自主流通米を認めざるを得なくなり、食管赤字の拡大を避けるため黙認しました。

食糧管理法廃止直前には、自主流通米が政府管理米の2.5倍に達し、自由米は30%を占める状況となっていました。

食糧管理法の廃止

1993年の米騒動とウルグアイ・ラウンドでの米輸入受け入れが、食糧管理制度の根本的な改革を促しました。

1995年、食糧管理法は廃止され、代わりに主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律（食糧法）が制定されました。これにより、農家が自由に米を販売できるようになり、政府による管理は緩和されました。制度の呼称も「食糧制度」に改められました。

減反政策

1970年代以降、米が余るようになったため、減反政策が推進されましたが、2004年には方針が転換され、2018年に減反政策は廃止されました。

2004年の大幅改正

2004年、食糧法が大幅に改正され、米の販売が届出制になり、輸入も一定額を支払えば自由に行えるようになりました。これにより、米の流通はより自由化されました。

麦流通

麦類については、1952年に統制が撤廃されましたが、2007年には政府買入制度が廃止され、全量民間流通となりました。

食糧管理制度は、戦時中の食糧難という特殊な状況下で生まれ、その後、時代に合わせて様々な変遷を遂げました。その過程で、食糧の安定供給という目的を達成する一方で、財政赤字や流通の硬直化などの問題も引き起こしました。そして、1995年の食糧法制定により、その役割を終えました。

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