飯豊青皇女

飯豊青皇女（いいとよあおのひめみこ）

飯豊青皇女は、5世紀末の皇族（王族）であり、第22代清寧天皇の崩御後に一時的に政務を執ったとされる人物です。飯豊天皇とも呼ばれることがあります。

名前について

飯豊皇女または飯豊王女（読みは共に「いいとよのひめみこ」）と表記されることが多いです。その他にも、飯豊女王、飯豊王、飯豊郎女、青海皇女、青海郎女、忍海郎女、忍海部女王、忍海飯豊青尊といった別名や表記があります。

「いひとよ」は古語でフクロウを意味し、「おしぬみ」は葛城の地名で飯豊王の本拠地とされています。忍海部は飯豊王の子代の部民であり、漢人を抱えた雑工部であったと考えられています。「あをみ」の由来は不明です。

修二会の過去帳や葛城山の枕詞に「青」が用いられていることから、「青」の意味を考察する価値があるでしょう。また、「青」は翡翠を指すこともあり、「青海」とは翡翠を産出する地である可能性も指摘されています。

事績

飯豊青皇女は、清寧天皇と顕宗天皇の間に執政者として存在し、女帝の先駆的存在として注目されています。日本書紀によると、生涯で一度だけ男性と関係を持ったとされています。

執政期間は短く10ヶ月余りであったとされますが、清寧天皇5年11月に崩御（天皇扱い）したと記述されています。しかし、清寧・顕宗天皇の実在を否定する立場からは、執政期間が数年に及ぶとの推定もあります。年齢については、『水鏡』に45歳と記されていますが、史実を反映しているかは不明です。

陵

陵（みささぎ）は、宮内庁によって奈良県葛城市北花内にある埴口丘陵に治定されています。宮内庁上の形式は前方後円墳で、遺跡名は「北花内大塚古墳」です。墳丘長90メートルの前方後円墳です。

日本書紀では「葛城埴口丘陵」、延喜式では「埴口墓」と記載されています。日本書紀では「陵」と表記されており、「墓」ではないことに注意が必要です。

考証

女帝であったか否か

記紀では天皇として認められていませんが、後世の史書には飯豊天皇と記されているものもあります。『先代旧事本紀大成経』には「清貞天皇」という諡号まであります。明治時代から昭和20年までは「天皇の尊号を贈り奉る」とされていましたが、歴代天皇には含まれていません。現在も宮内庁では「履中天皇々孫女　飯豊天皇」と称されており、不即位天皇としての扱いとなっています。

清寧天皇・仁賢・顕宗両天皇の代理（摂政）説

日本書紀によれば、清寧天皇の治世中に億計尊と弘計尊が発見されており、後継問題は解決済みだったはずですが、清寧天皇崩御後に億計尊と弘計尊が皇位を譲り合ったため、飯豊青皇女が執政したとされています。古事記では、清寧天皇崩後に皇嗣がいなかったため、飯豊王が執政したと記されています。

記紀では事実の経緯が異なっており、日本書紀は飯豊青皇女の執政期間を短くし、清寧天皇と顕宗天皇の間に空位がないように見せかけている可能性があります。古事記では、男子後継者候補がいなかった場合、飯豊王の執政は問題の先送りに過ぎず、後世の女帝と比較しても類例がないとされています。男子皇族間の皇位継承争いの予兆があり、それを緩和する意図があった可能性も指摘されています。執政期間が長期間に及んだ場合、本格的な女帝に近い存在だったといえるでしょう。

億計尊・弘計尊の兄弟は早くから飯豊王の保護下に匿われており、発見は出来レースだったという説もあります。

履中天皇皇女か皇孫か

古事記と日本書紀では、飯豊青皇女の出自が異なっています。古事記・日本書紀履中紀では、父を履中天皇、母を黒媛としますが、書紀顕宗紀に引く「譜弟」では、父を市辺押磐皇子、母を荑媛としています。

託宣の巫女説

折口信夫は、飯豊皇女を巫女的な人物であると解釈し、執政ではなく、神託によって後継者を指名したとしました。ただし、記紀には巫女的な要素を示す記述はないため、慎重な考察が必要であるとの説もあります。

飯豊王女は2人いた説

飯豊王は2人いたという説もあり、履中天皇皇女説と市辺押歯王王女説はどちらも正しいとする説があります。門脇禎二の説では、叔母を青海郎女、姪を忍海郎女としていますが、若井敏明の説では、叔母を青海・忍海、姪を忍海部・飯豊青としています。

若井説では、叔母の青海皇女は後継者を指名しただけで執政はしておらず、姪の飯豊女王が青海皇女の指名に基づいて執政したとします。また、忍海部と忍海宮はもともと青海郎女のものであり、飯豊王女は叔母の宮に身を寄せたとします。

関係する地名・神社など

福島県の飯豊山
「いいで」と読まれ、フクロウの住む山という意味が由来とされています。古代には「豊」を「て」、「で」などと読んだ可能性もあります。
『陸奥国風土記』逸文に飯豊青尊が物部臣に御幣を奉らせた伝承があります。
「飯豊」に関係する神社
飯豊比売神社（福島県白河市）
青海神社（福井県大飯郡高浜町）
角刺神社（奈良県葛城市）
飯豊山神社（福島県飯豊山）
飯豊神社（宮城県加美郡加美町）
飯豊神社（福島県田村郡小野町）

関連項目

女性天皇
神功皇后
* 飯豊

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