水鏡

『水鏡』の概要

『水鏡』（みずかがみ）は、鎌倉時代初期に成立した日本の歴史物語です。成立時期は1195年頃と推測されています。この作品は、国書の伝存目録である『本朝書籍目録』の仮名部に「水鏡三巻　中山内府抄」と記載されていることから、作者は中山忠親であるという説が有力です。ただし、源雅頼説などの他の説も存在しており、作者は必ずしも確定していません。

この書物は、一般的に「四鏡」の一つとされ、成立順では3番目に位置していますが、扱っている内容は最も古い時代にさかのぼります。具体的には、神武天皇から仁明天皇までの57代の事跡を、編年体で詳述しています。ただし、『大鏡』とは異なり、本作には皇族や大臣の列伝は含まれておらず、主に天皇の事績に焦点を当てています。

本書は、73歳の老婆が長谷寺での修行中に出会った修験者から不思議な体験を聞き、その内容を記録するという形式を取っています。序文を除いて、独自の記事はあまり多くなく、内容のほとんどは僧・皇円によって著された『扶桑略記』からの抜粋とされています。しかし、序文には著者独自の歴史観が表現されており、特異性が認められます。特に、「世の中をきはめしらぬはかたおもむきに今の世をそしる心の出でくるもかつは罪にも侍らむ」などの言葉は、歴史の理解についての独自の視点を示しています。また、『扶桑略記』に現存しない部分についての独自の解釈や価値も認められています。

各巻の特徴

序文

序文では、長谷寺の修験者が法華経を唱えている際に仙人が現れ、昔話を語り始めるという構成になっています。文徳天皇以降の時代については『大鏡』に詳しいため、それ以前の日本の歴史を語ることになります。興味深いことに、この序文自体は『扶桑略記』には存在せず、『水鏡』の作者による創作と考えられています。

上巻（神武～欽明天皇）

上巻は神武天皇から仲哀天皇までの時代に相当します。『扶桑略記』の巻1が抄本しか残っていないため、『水鏡』の方が詳細です。神武天皇の東征に関する記述はありませんが、特に垂仁天皇の記述が多く、天皇暗殺未遂事件や埴輪の起源に言及されています。

神功皇后から武烈天皇までを記載する部分もあり、神功皇后が天皇として即位した記録がここに見られます。清寧天皇の崩御後、女帝飯豊天皇の即位についても触れています。

中巻（敏達～孝謙天皇）

中巻では敏達天皇から推古天皇11年までが記録されています。ここでは敏達天皇紀が見られ、その中では聖徳太子の成長に多くのページが割かれています。推古天皇に関する記述もありますが、政治的な側面よりも仏教に関連した事柄に焦点が当てられているのが特徴です。

下巻（廃帝～仁明天皇）

下巻は廃帝から桓武天皇延暦10年までの記録が含まれます。特に、淳仁天皇を「廃帝」と呼び、藤原仲麻呂の乱が描かれています。一方、光仁天皇の記述が最長で、後ろ盾である藤原百川に関連する記事が含まれています。

『水鏡』は、続日本紀や扶桑略記の補完資料としても価値があり、特に欠落が多い『日本後紀』の部分についても重要な情報源となる可能性があります。全体として『水鏡』は日本史を理解する上で貴重な資料といえるでしょう。

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