首提灯

首提灯（くびぢょうちん）

首提灯は、古典落語の中でも特に人気のある演目の一つです。この物語は、1774年に出版された笑話本『軽口五色帋』に基づく「盗人の頓智」を元にしています。最初は小噺程度の短い話でしたが、4代目の橘家圓蔵が一席物にまとめ上げ、多くの人に愛される作品となりました。特に古今亭志ん朝は、彼の演じる『首提灯』を評価し、SF落語の嚆矢と位置づけています。

あらすじ

物語の舞台は、酩酊状態の男が品川遊郭に向かう途中、夜の芝山内での出来事から始まります。この芝山内には、追い剥ぎや辻斬りが出没しているとの噂が立ち、男は急いで通り抜けようとします。その際に出会ったのが背の高い侍です。侍は迷子になっており、麻布への道を尋ねてきます。

酔っ払いの男は内心焦りながらも虚勢を張りますが、侍の話し方に訛りがあることに気づくと、田舎侍と罵ることになります。侍は穏便に対応しますが、この男はその態度を見てますます調子に乗り、侍に対する罵詈雑言を投げかけ、最後には痰を吐きかけます。これに激怒した侍は、瞬時に居合抜きをして男の首を斬り落としてしまいます。

驚くべきことに、男は自分が斬られたことに気づかず、そのまま歩き始めます。しかし、次第に声が漏れたり、首がずれてきたりすると、首元を触った手が血まみれになっていることに気づきます。男は冗談めかして、「ニカワでもあれは元に戻るのか」と言いながら移動を続けますが、道の先で火事が発生しているのを見つけます。周囲には多くの野次馬が集まっており、混雑の中で自分の首が落ちてしまったら大変と考え、男は首を持ち上げ、提灯のように「はいごめんよ、はいごめんよ」と言いながら進むことになります。

上方版（上燗屋）

首提灯の話が上方に伝わると、内容は大きく異なり、演目は「上燗屋」となります。この上方版では、立ち飲み屋にいる酔客のやり取りが中心となります。泥酔した客は、初めて訪れた上燗屋の酒や料理を褒めちぎりますが、会計の時になり、持ち合わせがないことに気づき、ツケにしようと思いつきます。しかし、すぐに店主に拒絶され、どうしようか考えた末に、近くの古道具屋で仕込み杖を買い、そこで金をくずして精算します。

その後、酔客は帰路につきますが、買ったばかりの仕込み杖を使いたい衝動に駆られます。仕方なく家を無防備に見せかけると、泥棒が家に入ろうとし、首を伸ばしたその瞬間に、一刀のもとに斬られてしまいます。しかし、泥棒は生き残り、結果的に自分の首を提灯のように持ちながら逃げることになります。

考察

この演目における首提灯は、江戸時代の提灯の役割を巧妙に取り入れています。提灯には明かりを灯すだけでなく、名札としての機能もあり、遠目にも誰であるかが分かるように特注されていました。作品のオチがこのことと関連付けられている点が面白さの一つです。

コトバンクでは、首や胴が切られてもなお動き続けるというユニークなアイデアが評価されています。落語評論家である山本益博もこの発想に注目しており、独特の魅力が詰まっている作品です。1995年には古今亭志ん朝によって高座で演じられ、NHKで放送されました。この際、志ん朝自身が解説を行い、冬の時期には演じられないこと、またSF落語の代表作として他の作品も引き合いに出すなど、多くの創作背景について語られました。

志ん朝以外にも、この演目に秀でた演者には林家彦六や上方においては桂枝雀がいます。

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