首飾り事件

首飾り事件

首飾り事件は、1785年にフランスで発生した詐欺事件であり、革命前夜の政治不安と社会的緊張の象徴ともいえる出来事です。事件の中心人物は、ヴァロワ家の血を引くジャンヌ・ド・ラ・モット伯爵夫人であり、彼女は王室御用達の宝石商であるシャルル・ベーマーから驚愕の160万リーブルに相当する首飾りをロアン大司教に購入させ、それを王妃マリー・アントワネットに渡すと偽って騙し取るという巧妙な計略を立てました。これは、典型的なかたり詐欺の例とされています。

背景

ラ・モット伯爵夫人は、自身をマリー・アントワネットの親しい友人であると吹聴し、ルイ・ド・ロアン枢機卿に近づきました。枢機卿は、ストラスブールの名家出身ながら、放蕩の限りを尽くしていたため、実は王妃からは嫌われていました。しかし、彼は王妃への接近を諦めることなく、いつの日か彼女に取り入ることを夢見ていました。

この首飾りは、先王ルイ15世が愛人デュ・バリー夫人のために発注したもので、高額な商品であるため王妃の興味を引きました。ベーマーはマリー・アントワネットに売りつけようとしますが、彼女の意向が鈍く進展しない中、伯爵夫人が仲介を依頼される運びとなったのです。

事件経過

1785年1月、伯爵夫人はロアン枢機卿にマリー・アントワネットの名を冠した首飾りの代理購入を持ちかけました。前年夏には、娼婦であるマリー・ニコル・ルゲイ・デシニーを王妃の替え玉としてロアン枢機卿と面会させており、彼は伯爵夫人を完全に信じ込んでいました。結果として、ロアンは騙され、首飾りを購入して伯爵夫人に渡しましたが、その後首飾りはバラバラにされ、彼女の夫や共犯者たちによってロンドンで売却されました。

首飾りの代金が支払われないことから、ベーマーは王妃の側近であるカンパン夫人に問い詰め、事件が発覚します。その後、同年8月にロアン枢機卿やラ・モット伯爵夫人、そしてニコル・ドリヴァは逮捕されましたが、伯爵は逃亡して逮捕を免れました。ラ・モット伯爵夫人は、医師のカリオストロ伯爵を事件の首謀者として告発しましたが、後に彼も逮捕される事態となります。

裁判とその影響

この事件に憤慨したマリー・アントワネットは裁判を申し立て、1786年5月に判決が下されました。ロアン枢機卿とカリオストロ夫妻、ニコル・ドリヴァは無罪となり、唯一ラ・モット伯爵夫人だけが有罪とされました。彼女は「泥棒」を意味する「V」の文字を焼き印され、投獄されることとなります。

この裁判により、マリー・アントワネットはラ・モット伯爵夫人との不正な関係を噂され、彼女の名誉は傷つけられました。実際には全く関係がなかったにもかかわらず、この虚偽の噂は彼女の評判を著しく貶めることにつながりました。

社会的反響

この事件はフランス全土に衝撃を与え、多くの人によって王妃の陰謀として噂されるようになり、結果的にマリー・アントワネットへの風当たりが強くなりました。また、国王ルイ16世は判決直後に無罪となったロアン枢機卿を罷免して左遷し、国民の反感を買いました。不満を抱える民衆の中で事件は広まり、王妃の非業の死とも無関係ではないとされています。

フィクションへの影響

首飾り事件はフィクションにも多くの影響を与えています。モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパンシリーズや、映画『マリー・アントワネットの首飾り』、さらにゲーテの喜劇戯曲など、多くの作品に取り上げられています。こうした作品は、事件を多角的に描写し、時代の社会的背景や人間ドラマを鮮やかに表現しています。これにより、この事件はただの歴史の出来事にとどまらず、文化的なテーマとしても重要な意味を持っています。

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