香澄町弁

香澄町弁（かすみちょうべん）

香澄町弁は、かつて山形県山形市香澄町で用いられていた日本語の方言です。この方言は、同じ山形県内の他の地域で話される奥羽方言とは大きく異なり、静岡県浜松市付近の方言にルーツを持つという、非常に珍しい特徴を持っています。しかし、この独特な方言は、昭和時代にはほとんど使われなくなりました。

歴史的背景

香澄町弁の起源は、1845年（弘化2年）に遡ります。この年、天保の改革の責任を問われた老中、水野忠邦の息子である水野忠精が、浜松藩から山形へ転封となりました。水野家は元々、三河や遠州を転々としていたため、家臣の中には三河方言や遠州方言を話す者が多くいました。彼らは山形に移り住んだ後も、これらの地域の方言を使い続けました。

特徴

この三河・遠州由来の方言は、山形弁などの奥羽方言とは異なり、発音や音調が非常に美しく上品であると評されました。特に、水野藩の藩士が多く住んでいた香澄町周辺では、地元の人々を含め、この方言が広く使われるようになったのです。香澄町弁の大きな特徴として、アクセントの違いが挙げられます。山形市を含む村山地方の方言は、アクセントの区別がない一型アクセント（無アクセント）が一般的ですが、香澄町弁の話し手は有型アクセントを用いていました。

消滅と研究

方言学者の佐藤亮一は、1963年に東北大学を卒業する際の卒業論文で「山形市香澄町弁の研究」を執筆しました。この論文が作成された時点では、香澄町弁を話す人は高齢層に数人残る程度で、方言としてはほぼ消滅していたと考えられます。

香澄町弁は、その歴史的背景や、他の地域の方言とは異なる独特のアクセントなど、方言研究において非常に興味深い事例として注目されています。

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