山形弁

山形弁

山形弁は、山形県内で話されている日本語の方言の総称です。東北方言に分類され、その中でも特に多様な変化が見られる地域として知られています。山形県内には、大きく分けて庄内[[方言]]と内陸方言の二つの方言が存在し、さらに内陸方言は最上、村山、置賜の3つの地域に細分化されます。

方言の区分

山形県の方言は、地理的な要因と歴史的な背景から、大きく以下の二つに区分されます。

庄内[[方言]]: 日本海に面した庄内地方で話される方言で、北奥羽[[方言]]に属します。
内陸方言: 山形県内陸部で話される方言で、南奥羽[[方言]]に属します。さらに以下の3つに分かれます。
最上方言: 最上地方で話される方言。新庄弁とも呼ばれます。
村山方言: 村山地方で話される方言。
置賜方言: 置賜地方で話される方言。

これらの地域ごとの方言差は、それぞれの地域が地理的に隔たっていたことや、近世において藩が異なっていたことが影響していると考えられます。また、最上方言は庄内[[方言]]や秋田県方言の影響を受けている点も特徴的です。

音韻・音声

山形弁の音韻には、東北方言に共通する特徴と、内陸方言特有の特徴が見られます。

東北方言に共通する特徴

母音の音変化: /i/と/u/が中舌母音[ï]と[ɯ̈]に近く発音され、/e/も/i/に近い狭めの母音になります。そのため、「息」と「駅」のように、母音だけの場合には「イ」と「エ」が区別されにくくなる傾向があります。
子音の統合: シ、チ、ジがス、ツ、ズに統合される傾向があり、「梨」と「茄子」、「辻」と「知事」が同じ発音になることがあります。
子音の有声化: 語中や語尾のカ行・タ行子音が、有声母音に挟まれると有声化します（例: カギ→[gaɡi]）。また、語中・語尾のガ行子音は鼻濁音[ŋ]（か゜行で表記）になります。例外として「行く」は、内陸方言で「えく゜」/eŋu/と発音されます。
ザ・ダ・バ行子音の前には、軽い鼻音が挿入されることがあります。

山形県内陸方言の特徴

ヤ行子音の摩擦: ヤ行子音/j/が強く摩擦して発音されるため、「山形」が「じゃまがた」のように聞こえることがあります。
ヤ行エ段音の存在: /je/の音が存在し、jẽsa、jeruなどの単語に見られます。
キの音: キが[kçi]のように発音されるため、他地域の人には「チ」のように聞こえることがあります。ただし、元々「チ」の音は内陸方言では「ツ」に統合されるため、混同は起こりません。
クの音変化: クが、サ・シャ・セ・シェ・ソの前ではキになることがあります（例: kɨsa、kɨso）。
セ・ゼの音変化: セ・ゼがシェ[ʃe]・ジェ[dʒe]になる傾向があります。また、村山地方北部から最上地方では、セがヒェ・ヘとなることがあります。
連母音の変化: 連母音ai、aeは最上方言で融合してɛːになりやすいですが、村山方言と置賜方言ではそれほど融合しません。連母音ieは「める」(見える)、「ける」(消える)のように、eまたはeːとなります。連母音ueは「うぇる」(植える)、「くぇ」「けー」(食え)のように、weまたはeːになることがあります。
ハ行子音の摩擦音: 最上方言（や庄内[[方言]]）では、ハ行子音に無声両唇摩擦音[ɸ]が現れることがあります。

アクセント

アクセントは地域によって大きく異なります。

北奥羽式アクセント: 庄内地方のほとんどと最上地方の一部、小国町には北奥羽式アクセント（外輪東京式アクセントの変種）が分布しています。2音節名詞のアクセント型が、語末の母音によって変化する特徴があります。
特殊アクセント: 最上町には、2音節名詞で平板型と頭高型のみが存在する特殊なアクセントが見られます。
無アクセント: 小国町を除く置賜地方と村山地方は無アクセント地域です。かつては東根市から舟形町にかけて特殊アクセントが見られましたが、現在ではほぼ消失し、無アクセント地域が拡大しています。

文法

山形弁の文法には、共通語とは異なる特徴が数多く見られます。

用言の活用

ラ行の促音化: 動詞末尾のラ行音に「か」「から」などの子音で始まる接辞が付く場合、ラ行音が促音化します（例: みっから(見るから)）。
形容詞の活用: 形容詞は終止形に近い活用をします（例: 「おっかねがった」「おっかねがんべ」）。
形容動詞の活用: 形容動詞の連体形が、庄内地方から最上地方北部では「-だ」で終止形と同形になる一方、最上地方西南部から村山地方、置賜地方では共通語と同じ「-な」になります。

仮定条件

動詞の仮定形には、共通語と同じ「書けば」の形のほか、「書いだらば」「起ぎだれば」などの「-たらば」「-たれば」など様々な形を用います。形容詞の仮定形には「えーげば」のような「-けば」や、「-たら」を用います。コピュラ「-だ」の仮定形には「-だら」や「-だごんたら」を用います。

述語の文法的カテゴリー

否定: 動詞の否定には「-ない」が融合した「-ね」を使いますが、「-れる」「-られる」の否定には「-んなえ」「-らんなえ」を使います。
過去: 過去を表す「-た(だ)」は、置賜地方では「-ちゃ(じゃ)」と言います。
進行相: 進行アスペクトには、「かえでだ」「かえっだ」(書いている)のような「-てた」や「-っだ」を使います。
推量・意志・勧誘: 推量には内陸方言で「-べ」を使い、動詞に付ける場合は意志や勧誘も表します。ラ行五段動詞などに付く場合は「とっぺ」「とんべ」(取ろう)のように促音化や撥音化が起きます。
可能: 村上地方・最上地方では、動詞の終止形に「え」を付けて可能表現を作ります。置賜地方では「-れる」「-られる」を用います。
使役: 五段活用・サ変には「-しぇる」、一段活用・カ変には「-らしぇる」を用います（例: いがしぇる(行かせる)）。
回想: 回想を表す「け」を、活用語の終止形に付けます（例: 「もう少しで忘れっけは」）。
希望: 希望を表す「-たえ」が付く動詞の活用形は、村山方言では連用形と終止形が混在します（例: かえだえ/かうだえ(買いたい)）。

敬語表現

旧城下町を中心に敬語表現があり、新庄市付近などに「-あんす」、米沢市付近に「-やる」「-なる」などの助動詞が見られます。

助詞

格助詞: 主格助詞(が)や対格助詞(を)は省略されることがあります。対格助詞には「ば」が用いられることがあり、連体修飾語を作る「の」は、代名詞につく場合は「な」、樹木名につく場合には「ぬ」になります。
方向の助詞: 方向を表す助詞「さ」は、存在する場所や、動作の受け手、目的にも用いられます。
比較の助詞: 比較の「より」に対応するものとして、村山地方に「えが」「いぇが」、置賜地方に「よっか」「よっかも」、最上地方に「よが」などがあります。
副助詞: 「-どころか」には、一部地域で「-おかしゃれ(おがしゃれ)」、 「-ばかり」には「-ばり」「-ばかし」と言います。
接続助詞: 原因・理由には「-さけ(さげ)」「-はけ(はげ)」「-から」が使われ、逆接既定条件には「-けど」「-けんど」などが、逆接仮定条件には「-たて」が用いられます。
終助詞: 「-っす」は丁寧、「-した」「-はー」「-ずー」「-じゅ」「-じぇ」は強意、「-ねや」は「〜よ」「〜ね」にあたる表現で、「-ほに」「-ほれ」「-そ」「-と(ど)」「-こで」などがあります。

各地域の方言例

村山弁: 「んだず」「んだべした」「んだずにゃー」 (そうだ)
新庄弁: 「んだじゅー」「んだにゃー」 (そうだ)
置賜弁: 「んだっそ」「んだごで」 (そうだ)
庄内弁: 「んだのー」 (そうだ)

山形弁を使う人物

ダニエル・カール（山形弁研究家）
佐藤唯
谷村昌彦
成海亜紀
ロケット団 (お笑いコンビ)
[朝倉さや]
ミッキーチェン

山形弁に関連した作品など

今夜はなまらナイト（NHK山形放送局）
スウィングガールズ (邦画)
47都道府犬

出典

斎藤義七郎 著「山形県の方言」、飯豊毅一; 日野資純; 佐藤亮一 編『講座方言学 4 北海道・東北地方の方言』国書刊行会、1982年。
遠藤仁 著、平山輝男 編『日本のことばシリーズ6山形県のことば』明治書院、1997年。

関連項目

* 東北方言

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