馬場正雄

馬場 正雄

馬場 正雄（ばば まさお、1923年10月4日 - 1986年10月27日）は、日本の経済学界において重要な足跡を残した研究者です。京都大学で長年教鞭をとり、特に景気変動の予測、企業行動の分析、そして産業組織論といった領域で貢献しました。

滋賀県に生まれた馬場正雄は、京都大学経済学部で経済学を学びました。大学での学びを終えた後、研究者としての道を歩み始め、まず和歌山大学で講師、次いで助教授を務めました。その後、母校である京都大学へ移籍し、助教授を経て教授へと昇任しました。

京都大学における研究・教育活動の中心人物の一人として、多くの学生を指導し、経済学の研究を進めました。1962年には、その卓越した研究成果である「景気予測と企業行動」の論文により、経済学博士の学位を授与されています。この研究は、彼のその後の学術活動の基礎となるものでした。

また、学内の要職も歴任しており、特に京都大学経済研究所の運営に深く関わりました。1971年から1974年にかけて、そして再び1986年に、同研究所の所長を務めています。しかしながら、1986年の所長再任から間もなく、病のため63歳という若さで急逝しました。その突然の訃報は、日本の経済学界に大きな衝撃を与えました。

馬場正雄の学術的な貢献は多岐にわたります。経済の波である景気循環のメカニズムを解明し、その将来を予測するための理論や手法の開発に注力しました。また、経済を動かす主体である企業の行動原理や、市場構造、特に独占や寡占といった寡占的な状況が経済全体に与える影響についても深く探求しました。これらの研究は、現代の産業組織論や独占禁止政策の理論的基盤に影響を与えています。さらに、計量経済学の手法を駆使して、経済現象を数量的に分析する研究も行い、その分野の発展にも寄与しました。

彼の研究成果は、多くの著作として世に送り出されています。代表的な単著としては、学位論文を基にした初期の集大成である『景気予測と企業行動』（創文社、1961年）のほか、一般向けの経済解説書として広く読まれた『経済見通し 成長と安定への道』（中公新書、1969年）、産業組織論に関する論考をまとめた『反独占の経済学』（筑摩書房、1974年）、経済学者の視点から時事を論じた『エコノミストの視点』（筑摩書房、1983年）があります。逝去後には、遺稿などをまとめた『日本経済観測と分析』（名古屋大学出版会、1988年）が出版されました。

単著に加え、多くの共同研究や編纂活動にも取り組みました。杉浦一平氏との共著『景気変動の分析と予測』（有斐閣、1961年）、宮崎勇氏との共編著『社会人のための応用経済学』（日本経済新聞社、1967年）、新野幸次郎氏との共編著『寡占の経済学』（日本経済新聞社、1969年）など、幅広い分野の共同研究を推進しました。さらに、『計量経済学入門』（有斐閣双書、1970年）の編纂、田口芳弘氏との共編著『産業組織』（日本経済新聞社、1970年）、篠原三代平氏との大部の共編著『現代産業論』（全3巻、日本経済新聞社、1973-74年）、正村公宏氏との共編著『日本の産業 5 産業社会と日本人』（筑摩書房、1980年）など、多岐にわたるテーマで日本の経済研究をリードしました。

また、海外の優れた経済学研究を紹介することにも力を注ぎました。J.S.デューゼンベリーの『景気循環と経済成長』（好学社、1965年）の翻訳や、W.F.ミュラーの『産業組織論入門』（東洋経済新報社、1977年）の監訳を手がけ、海外の理論や実証研究を日本の研究者や学生に紹介する上で重要な役割を果たしました。これらの活動を通じて、馬場正雄は日本の経済学、特に景気分析と産業組織論の分野の発展に多大な貢献を残しました。

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