馬爾康市

馬爾康市（バルカム）：チベット文化が息づく四川省の秘境

馬爾康市（バルカム, 'bar khams）は、中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州の中部に位置する県級市です。東には鷓鴣山がそびえ、その向こうには理県が広がります。東経101度17分から102度41分、北緯31度35分から32度24分の範囲に位置し、その中心部であるバルカム（馬爾康鎮）は、アバ・チベット族チャン族自治州の人民政府所在地であり、四川省西部の交通と交易の中心地としての役割を担っています。

民族と文化

市の人口はチベット人、特にギャロン・チベット族（嘉絨蔵族）が中心です。彼らはチベット・ビルマ語派に属する羌語系の言語、ギャロン語（嘉絨語、rGyal-rong）の方言である四土話を話します。ギャロンとは、チベットの四大聖山のひとつであるムルド山（ギェルモン・ムルド、Gyelmo Murdo, 墨爾多山、墨尔多山、標高5,105m）を取り巻く大渡河の峡谷地帯に住む人々を指し、チベット人よりも羌族に近いとされています。独自の言語や文化を持ち、チベット文化圏の中でも特異な存在感を示しています。

地理

馬爾康は、チベット高原の東部辺縁に位置する高山峡谷地帯であり、その面積の65%を高原が、35%を高山と峡谷が占めています。梭磨河、脚木足河、茶堡河、大金河などの河川が市内を縦横に流れ、深い峡谷を形成し、これらの河川はすべて長江の支流である大渡河水系に属しています。気候は夏は涼しく、冬は寒く、四季がはっきりとしており、年平均降水量は753mm、年平均気温は8.6度です。この厳しい自然環境が、独特の生態系と景観を育んでいます。

歴史

中華人民共和国建国以前、馬爾康は卓克基・梭磨・松崗・党壩という四つの土司（少数民族の世襲の諸侯）が管轄する地域であり、「四土」「四土地区」と呼ばれていました。馬爾康（バルカム）という地名は、現地の寺廟の名に由来し、「香火の旺盛な地」という意味を持っています。1953年に馬爾康弁事処が置かれ、1955年に馬爾康県となり、2015年10月に県が廃止され市となりました。

特に注目すべきは、卓克基土司官寨です。この官寨は全国重点文物保護単位に指定されている大きな木造建築で、現存する数少ない土司の官寨の一つです。卓克基の土司が住んできた立派なギャロン人の建築物であり、他の土司らとの戦争に備えた要塞としての機能も兼ね備えていました。最後の土司である索観瀛は、長征でこの地を通った毛沢東や周恩来ら中国共産党軍を歓待し、官寨に住まわせたというエピソードも残っています。一時放置されていた官寨は、1980年代に外国人記者によってその価値が再発見され、修復されました。また、直波村には、村民たちが敵の襲来に備えて建てた石の楼閣である碉楼が今も残っています。

経済

農業と林業がこの地域の中心的な産業です。チベットでよく食されるオオムギの一種でβグルカンが豊富な青稞やコムギなどが栽培されています。また、馬爾康地方は漢方薬やチベット医学の薬草が豊富で、羌活、霊芝、冬虫夏草、貝母など1,300種類以上の薬草が採集され、「四川西部の薬山」という異名を持っています。林業では雲杉木（ドラゴントウヒ）、カバノキなどが多く、マツタケも採集されます。牧畜業も盛んで、牛や羊の皮を使った製品も製造されています。これらの資源を活かした産業が、地域の経済を支えています。

行政区画と交通

市政府は馬爾康鎮に置かれています。交通面では、成汶高速道路やG317国道が市内を通過しており、外部とのアクセスを支えています。

健康・医療

馬爾康市人民医院が地域の医療を担っています。

馬爾康市は、豊かな自然、独自の文化、そして歴史的な背景を持つ魅力的な都市です。四川省を訪れる際には、ぜひ足を運んでみてください。

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