駅戸

駅戸（えきこ）について

駅戸は、律令制の時代に特定の農民が駅務に従事するために定められた戸籍を指します。駅戸は、国の交通網の整備や輸送業務を支える重要な役割を果たしていました。具体的には、駅田を耕作し、駅馬を育成する義務を負っていました。特に、九等戸中、中中戸以上に位置する駅戸がその任務を担っていました。

駅戸の役割と義務

駅戸は、駅子と呼ばれる従事者を出す義務を負っており、駅子はその名の通り駅務に従事しました。これらの義務を厳守するため、駅戸の中でも特に裕福で経験豊富な者が駅長として指名されました。馬1匹を担当するのに、数戸の駅戸が配置されたと考えられています。

また、東海道、東山道、山陽道などの主要な官道沿いには「駅家郷」と呼ばれる地名が残っており、その郷全体が駅戸で成り立っていたこともあるとされます。これにより、駅戸は単なる個別の農民ではなく、地域全体の交通の要となる存在であったことがわかります。

駅戸の特権と負担

駅子や駅長には一定の特権も存在しました。駅子は徭役から免除されることがあり、特に山間部など交通が困難な地域では、駅子も課役を免除されるケースがありました。しかし、これらの特権の裏には重い負担がありました。駅田の耕作やそこから得られる駅稲の収穫は、運営費用に充てられるため、駅戸は同時にその労働も求められていたのです。

また、駅馬の飼育に関する義務や、駅子の服装に必要な蓑笠の用意など、さまざまな負担が課せられていました。特に官道や山道において交通量が増加するにつれ、官人が駅戸に対して駅鈴の定め以上の馬の提供を強要するようになるなど、負担は増す一方でした。目的外の使用が行われることも増え、駅戸にとっては大きな負担となっていたのです。

駅戸からの逃亡

こうした負担がますます重くなる中で、駅戸は耐え難くなり、負担を理由に逃亡する事例が見られるようになりました。特に、時代が進むにつれ、駅戸の抑圧は強まり、逃げた駅戸への厳しい対応が行われることもありました。これにより、駅戸制度においては厳しい現実が存在し、農民たちにとっては多くの苦難を強いるものであったと言えるでしょう。

結論

駅戸制度は、古代日本の交通や物流の基盤を支えた重要な存在でありました。しかし、負担の重さから逃亡者が出るなど、農民にとっては厳しい現実が伴っていたことも忘れてはなりません。この制度は、日本の歴史の中で特有の役割を果たしており、その歴史を知る上で欠かせない要素となっています。

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