騎士の夢

『騎士の夢』

『騎士の夢』（きしのゆめ）は、イタリアの巨匠ラファエロ・サンツィオが1504年頃に描いた油彩画です。この作品は、シリウス・イタリクスの叙事詩『プニカ』に基づき、スキピオ・アフリカヌスのエピソードを主題としています。現在、この絵画はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されており、そのカルトンは大英博物館で見ることができます。

作品の詳細

この絵画には、山々に囲まれた静かな風景が背景に描かれており、スキピオは月桂樹の下で休息をとりながら眠りに落ちています。作品の中央には、彼の夢を象徴する二人の女性が描かれています。その一方は美徳を象徴する女性で、落ち着いた衣服を纏っており、スキピオに武勇と学問の象徴ともいえる剣と書物を手渡しています。彼女は、彼に戦争での勝利がもたらす名誉と栄光を約束しているのです。

もう一方は快楽を象徴する女性で、金髪に魅惑的な目を持つ美しい姿で描かれています。彼女はスキピオにギンバイカの花を贈り、穏やかで静かな生活を約束します。背景には二つの道が示されており、美徳が導く険しい道は岩山に連なり、快楽が導く道は穏やかな湖に向かって下っています。こうした対比は、選択の重要性を強調しています。

この作品がシリウスの詩と結びついているのは、美術史家エルヴィン・パノフスキーによるものです。詩の一節では、英雄ヘラクレスが分かれ道で美徳と悪徳に出会う様子が描かれており、ラファエロはその寓話に影響を受けた可能性が高いとされています。彼の父、ジョヴァンニ・サンツィオもこの寓話に触れ、ウルビーノ公爵フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロについての詩を執筆しており、ラファエロはこの物語をよく知っていたことでしょう。

しかし、ラファエロはこの主題を道徳的選択として単純化するのではなく、理想的な騎士が求める美徳を組み合わせた形で表現しました。対象的に配置された月桂樹の葉は、善良な騎士が軍事的、学問的、そして恋愛において勝ち取る名誉を象徴しています。読者に持続的な勝利の意味を考えさせる要素となっています。

絵画制作の過程で、ラファエロは当初は快楽をより魅力的に描いていましたが、最終的には控えめな装いで表現し、愛の役割を強調しました。このことは、対作品である『三美神』と『騎士の夢』がそれぞれ伝統的な男性価値（勇気、学問、愛）と女性価値（純潔、美、愛）に基づいていることからも窺えます。これらの作品は結婚を記念して制作されたと考えられていますが、それぞれ物語やテーマにおいて微妙に異なるため、単に並べて展示するために作られたわけではないかもしれません。

来歴

『騎士の夢』は、1650年にボルゲーゼ・コレクションに初めて記録されました。1798年には美術コレクターのウィリアム・ヤング・オトリーがローマで購入し、後に知名度の高い肖像画家トーマス・ローレンス卿のコレクションに追加されました。ナショナル・ギャラリーは1847年にこの作品を1,000ギニーで取得し、同時にカルトンも購入しました。その後、両作品は一緒に展示されていましたが、1994年にはカルトンが大英博物館に移された経緯があります。

このように『騎士の夢』は、ラファエロの才能と彼が描いたテーマの深さを示す名作であり、今なお多くの観衆に感動を与え続けています。

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