高木剛 (数学者)

高木 剛

日本の応用数学者である高木剛（たかぎ つよし）氏は、現代社会の基盤を支える情報技術、特にセキュリティの中核をなす暗号理論の分野で世界的に知られる研究者です。現在は、東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻の教授として、後進の育成と最先端の研究推進に精力的に取り組んでいます。

経歴

高木氏の学術的な道のりは、1993年3月に名古屋大学理学部数学科を卒業したことから始まります。さらに数学の探究を深めるため同大学の大学院に進み、1995年3月に理学研究科数学専攻の修士課程を修了しました。

修士課程修了後、同年4月には日本電信電話株式会社（NTT）に入社し、NTT研究所にて実社会に直結する研究開発に携わります。民間企業での経験を積む一方で、海外での研究機会も得ました。1997年10月からはドイツのダルムシュタット工科大学情報科学部にて客員研究員として招聘され、その後の1998年10月にはNTTドイツ研究所に籍を移しました。

ダルムシュタット工科大学では研究活動を続け、2001年1月には同大学情報科学部よりDr. rer. nat.（自然科学博士）の学位を取得しました。学位取得後もドイツに留まり、2001年3月にダルムシュタット工科大学情報科学部助手、2002年7月には助教授へと昇任し、国際的な環境で教育・研究の経験を積みました。

2005年4月、日本の公立はこだて未来大学システム情報科学部に准教授として着任し、国内での教育・研究活動を再開します。同大学では2008年4月に教授へと昇進しました。その後、活躍の場を移し、2010年4月には九州大学大学院数理学研究院教授に就任。さらに2011年4月からは、数学と産業連携を推進する九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の教授も兼任しました。

そして、2017年4月からは、現在の所属である東京大学大学院情報理工学系研究科の教授に就任し、現在に至ります。

研究分野と業績

高木氏の専門は応用数学、特に現代社会において極めて重要な役割を果たす暗号理論にあります。古典的な暗号方式に加え、情報セキュリティの将来を見据えた先進的な研究にも取り組んでいます。

近年の研究における特に注目すべきテーマの一つに、「耐量子計算機暗号」があります。量子コンピュータの登場が予測される将来において、現在の公開鍵暗号の多くが破られてしまうリスクが指摘されており、これに耐えうる新たな暗号技術の研究開発が喫緊の課題となっています。高木氏は、この分野の第一人者として、新たな耐量子計算機暗号の設計や安全性評価に関する研究を精力的に行っています。著書である『暗号と量子コンピュータ -耐量子計算機暗号入門-』は、この重要なテーマに関する専門的な知識を普及させる上で大きな役割を果たしています。

受賞歴

長年にわたる卓越した研究活動とその成果は、国内外で高く評価されており、数多くの権威ある賞を受賞しています。

1997年：電子情報通信学会学術奨励賞
1998年：NTT研究開発本部長賞
2009年：船井情報科学振興賞
2013年：情報処理学会喜安記念業績賞
2013年：ドコモ・モバイル・サイエンス賞
2014年：電子情報通信学会業績賞
2015年：日本学術振興会賞
2020年：情報処理学会論文賞

これらの受賞は、高木氏の研究が学術界だけでなく、産業界からもその価値を認められていることの証と言えるでしょう。

高木剛氏は、教育者としても研究者としても、情報セキュリティの未来を担う重要な存在であり、その今後の活躍からも目が離せません。

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