高橋亦助

高橋亦助：日本の近代製鉄を支えた不屈の技師

高橋亦助（たかはし またすけ）は、明治から大正時代にかけて活躍した高炉技師であり、日本の近代製鉄のパイオニアの一人です。特に、西洋式の製鉄所として日本で初めて継続的な成功を収めた釜石鉱山田中製鉄所の創立に大きく貢献し、その後の発展を生涯にわたって支え続けました。

波乱万丈な幼少期から製鉄の世界へ

高橋亦助は、陸奥国（現在の岩手県）釜石村東前、上の沢の旧家で生まれました。幼い頃に父を亡くし、寺で学んだり、商家の手伝いをしたりと、様々な経験をしながら育ちました。1875年（明治8年）、22歳の時に工部省鉱山局釜石出張所の求人に応募し、採用されたことが、彼の人生を大きく変える転機となりました。

官営製鉄所の苦難と挫折

釜石では、5年越しの建設工事を経て、1880年（明治13年）に日本初の官営製鉄所が操業を開始しました。高橋亦助は、外国人技師らの下で高炉操業の技術を学びましたが、木炭供給不足や鉱滓による出銑口の閉塞など、様々な問題が発生し、操業は度々中断。1882年（明治15年）には廃山が決定し、官営製鉄所は閉鎖されました。さらに、コレラの流行や大火など、釜石の村全体が苦難に見舞われる状況でした。

田中長兵衛との出会いと再挑戦

官営製鉄所の廃止後、誰もが二の足を踏む中、東京の田中長兵衛が製鉄所の再建を決意し、娘婿の横山久太郎を釜石に派遣しました。横山は、官営操業時の経験を買われ、高炉操業主任として共に挑戦することになります。しかし、資金は潤沢とは言えず、2基の小型高炉で試行錯誤を繰り返すも、銑鉄はなかなか出てきませんでした。資金が底をつき、職工への賃金支払いも困難になる中、横山は東京へ呼び出され、高橋亦助は解雇を言い渡しました。

奇跡の出銑、そして製鉄所再建へ

解雇後、高橋亦助はこれまで不良とされていた鉱石を使ってみるべしという夢を見ます。すると翌朝、解雇したはずの職工たちが「賃金は要らないので、もう一度挑戦させてほしい」と申し出てきました。高橋亦助は、この不思議な一致に何かを感じ、夢で見た通りに不良鉱石を使ったところ、ついに見事な出銑に成功。それは1886年（明治19年）10月16日のことでした。この日は後に釜石製鉄所の創業記念日とされました。

釜石鉱山田中製鉄所の設立と発展

政府より正式な払い下げの許可を得た田中長兵衛は、翌1887年（明治20年）7月に釜石鉱山田中製鉄所を設立しました。高橋亦助は、高炉主任として横山久太郎を支え、日本初のコークス銑産出にも成功するなど、製鉄所の発展に大きく貢献しました。1917年（大正6年）には、田中鉱山株式会社の監査役に就任し、栗橋分工場の工場長も務めました。

スペイン風邪による突然の死と、その遺徳

1918年（大正7年）11月、世界的に流行したスペイン風邪により、高橋亦助は66歳で急逝しました。創業時から苦労を共にしてきた横山久太郎は、彼の死を深く悼んだと言われています。会社は社葬をもってその功績に報い、遺骨は石応禅寺に埋葬されました。釜石湾を見下ろす薬師公園には、彼の功績を称える高炉を模した彰徳碑が建てられています。

温厚で寛容な人柄

高橋亦助は、温厚で寛容な人柄で知られており、部下を決して呼び捨てにせず、「衆（しゅう）」をつけて呼んだと言われています。服装は質素で、時計を持たず、出張の際には部下から借りていくなど、飾らない人柄が多くの人に慕われました。

高橋亦助は、日本の近代製鉄の黎明期を支えた偉大な技術者であるとともに、その温かい人柄で多くの人々に愛された人物でした。彼の不屈の精神と情熱は、今もなお釜石の地に息づいています。

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