高橋貞太郎

高橋 貞太郎（たかはし ていたろう）

大正から昭和にかけて活躍した日本の建築家です。特に、華麗な邸宅や、格式あるホテル建築に多くの秀作を残しました。

経歴

1892年6月26日、滋賀県犬上郡彦根町（現在の彦根市）に誕生しました。旧制第三高等学校を経て、1916年には東京帝国大学工科大学建築学科を卒業しています。建築学を佐野利器に師事し、優秀な成績を収めたことから卒業時には恩賜の銀時計が授与されました。

卒業後、一時的に滝川鉄筋コンクリート工務所に勤務した後、1917年には内務省明治神宮造営局の技師となります。ここでは師である佐野利器の指導のもと、東京都明治神宮外苑に現存する聖徳記念絵画館の実施設計に深く関わりました。その後、アメリカやヨーロッパへの視察旅行を経て、1921年には宮内省内匠寮の技師に転じます。ここでは赤坂離宮の改修や、宮家関連の建築に携わりました。1925年には学士会館の設計コンペティションで入賞を果たしています。

また、1925年に佐野利器（当時東京市建築局長を兼任）の尽力で設立された復興建築助成株式会社では技師として活動しました。1930年には独立し、自身の建築事務所である高橋建築事務所を設立。戦時中には朝鮮半島での事業も手掛けたと言われています。第二次世界大戦終結後も精力的に活動を続け、帝国ホテルなど数々の建築設計に携わりました。建築活動以外にも、ライオンズクラブや救ライ運動といった社会事業にも積極的に関与しました。

主な作品

高橋貞太郎は、個人邸宅から大規模なホテルまで、幅広い建築を手掛けました。特に知られているのは以下の作品群です。

邸宅建築: 前田侯爵邸、服部邸など、豪華で格式高い個人邸宅の設計を得意としました。
ホテル建築: 上高地ホテル、川奈ホテル、赤倉観光ホテルなど、景勝地に佇むリゾートホテルや都市ホテルの設計に多くの実績を残しました。これらのホテルは、その地の景観に調和しつつ、高い品格を備えていると評価されています。

帝国ホテルとの関わり

高橋貞太郎の建築家人生において、帝国ホテルは特に重要な位置を占めます。フランク・ロイド・ライトが設計し、1923年の関東大震災でその耐震性が伝説的に語られることとなった帝国ホテル本館（ライト館）ですが、実際には少なからず被害を受けており、また施設の陳腐化も進んでいました。

昭和10年代には、迫る東京オリンピック（後に中止）を見据え、このライト館の建て替え計画が持ち上がります。高橋貞太郎はこの計画の設計担当者として予定されており、欧米のホテルを視察するなど準備を進めていましたが、日中戦争の激化によりオリンピック中止とともに計画は実現に至りませんでした。

しかし、第二次世界大戦終結後も高橋氏と帝国ホテルの関係は続きます。戦後の増築計画において、1954年に竣工した第一新館、1958年の第二新館の設計を担当しました。

そして1960年代に入り、ライト館の老朽化と新たな需要への対応のため、ついにその取り壊しと新本館建設が決定します。新本館の設計者に選ばれたのは高橋貞太郎でした。しかし、世界的に著名なライトの建築を取り壊すという決定に対して、保存を求める強い運動が起こり、新本館の設計者である高橋氏もその批判の矢面に立たされることになります。この厳しい状況下でも高橋氏は設計・監理の職務を全うし、そのために建築家協会を脱会するという道を選びました。ライト館は1968年までに姿を消し（後に正面玄関部分が愛知県の明治村に移築・再現）、1970年に高橋貞太郎が設計した新本館が竣工しました。奇しくも、高橋氏は新本館竣工と同じ1970年10月1日に逝去しています。

帝国ホテル新本館は、長年にわたり日比谷の景観を形作る上で、交流のあった建築家・村野藤吾が設計した日生劇場と並び称される存在となりました。ただし、あまりに有名で伝説的な存在であったライト館の陰に隠れがちで、高橋氏が設計した新本館がその建築的価値に見合う評価を得る機会は限定的であったと言えます。建築作品として言及される際の正式名称は「帝国ホテル東京」とされています。

ライト館の建て替えは、数十年越しの大きなプロジェクトであり、その完成に生涯を捧げたとも言える高橋貞太郎の建築家としての足跡は、日本の近代建築史において重要な位置を占めています。

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