高橋里美

高橋里美：現象学を日本に紹介した哲学者

高橋里美（たかはし さとみ）は、1886年（明治19年）に山形県で生まれ、1964年（昭和39年）に生涯を閉じた日本の哲学者です。彼は、東北大学の総長を務めるなど、教育者としても多大な貢献をしました。特に、近現代ドイツ哲学、とりわけ現象学の研究で知られ、その研究成果は日本の哲学界に大きな影響を与えました。

生い立ちと学問への道

高橋は、13歳で父を亡くし、母方の実家で育ちました。米沢中学校、第一高等学校を経て、1907年に東京帝国大学文科大学哲学科に入学。1910年に卒業後、大学院に進み哲学の研究を深めました。大学院在学中の26歳の時、処女論文「意識現象の事実と其意味」を発表し、西田幾多郎の『善の研究』を批判したことで、哲学界で一躍注目を集める存在となりました。

教育者としての活躍

1919年、新潟高等学校教授に就任。その後、1921年に東北帝国大学理学部助教授として教鞭を執り始め、1925年からは文部省在外研究員としてヨーロッパへ留学。ハイデルベルク大学やフライブルク大学でリッケルトやフッサールの薫陶を受け、現象学への造詣を深めました。1928年に東北帝国大学法文学部教授に昇格し、1937年からは法文学部長も務めました。

戦後の活動と東北大学総長就任

戦後は、1947年に山形高等学校校長に就任。1948年には学位論文『包弁証法』を東北大学に提出し、文学博士号を取得しました。1949年には東北大学第9代総長に就任し、3期にわたり学長を務めました。在任中は、占領下のGHQによるレッド・パージの影響を受けたイールズ事件に対応するなど、大学運営に尽力しました。また、1956年には宮中講書始の儀で「文化の根本動機としての愛の諸形態」というテーマで御進講を行いました。

学術的業績と評価

高橋は、現象学研究の日本における先駆者として知られています。処女論文での西田幾多郎批判は、当時の哲学界に大きな衝撃を与え、西田との論争は注目を集めました。高橋は西田哲学に対抗しうる独自の哲学体系を構築し、その業績は高く評価されています。彼の著作は『高橋里美全集』(全7巻)にまとめられ、その思想は後世に受け継がれています。

その他の活動

高橋の思索を考察する研究会として、2016年には「国際高橋里美研究会」が発足しました。また、彼の収集した西洋哲学関係の洋書は「高橋文庫」として山形大学に収蔵されており、研究者にとって貴重な資料となっています。

主な著作と翻訳

高橋は、哲学研究だけでなく翻訳活動も行っており、ベルクソンの『物質と記憶』やヘーゲルの『哲学概論』などの翻訳も手がけました。

著作集
『高橋里美全集』(全7巻) 福村出版 1973

翻訳
『物質と記憶』ベルクソン著、星文館 1914
『哲学概論』ヘーゲル著、武市健人共訳 岩波書店 1932

記念論集
『高橋里美 人と思想』高橋里美先生を偲ぶ文集刊行会 日本化研印刷出版部 1979

受賞・栄典

高橋の業績は社会的に高く評価され、1958年には文化功労者に選出、1964年には正三位、勲一等瑞宝章を受章しました。

まとめ

高橋里美は、哲学者としてだけでなく、教育者、大学運営者としてもその才能を発揮し、日本の哲学界、教育界に大きな足跡を残しました。彼の現象学研究は、今日においても重要な意義を持ち、多くの研究者によって研究が続けられています。

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