高畠式部

高畠式部（たかばたけ しきぶ）

激動の時代、すなわち日本の幕末から明治維新を経て、新しい社会へと移り変わる時期に生きた女性歌人の一人に、高畠式部（たかばたけ しきぶ）がいます。彼女は天明五年（一七八五年）に生まれ、明治十四年（一八八一年）五月二十八日に九十歳を超える生涯を閉じるまで、歌の道を歩み続けました。本名は刀美（とうみ）と伝えられていますが、式部という名前は彼女が生涯にわたって用いた雅号として知られています。

高畠式部は、古くから商業の地として栄えた伊勢国松坂（現在の三重県松阪市）の商家に生を受けました。豊かな環境で育った彼女は、幼い頃から歌の世界に親しんだと考えられます。歌の才能を開花させるにあたって、彼女が師事したのは、当時歌壇の中心的存在であり、桂園流の創始者である香川景樹（かがわ かげき）でした。景樹のもとで、式部は桂園流の雅びで流麗な詠風や歌の理論を学び、歌人としての基礎を確立しました。

香川景樹が世を去った後、式部はさらに歌道の研鑽を深めるため、千種有功（ちくさ ありこと）に師事しました。有功もまた景樹に師事した人物であり、式部は景樹門下の先輩にあたる有功から、歌の精神や表現技法について学び続けたのです。このように、高畠式部は歌壇における二人の大家に師事することで、自らの歌風を確立していきました。

彼女の才能は、和歌だけに留まりませんでした。書画、彫刻、琵琶や笙といった古典的な音楽、そして茶道といった、当時の教養人が身につけるべき幅広い分野の技芸や知識にも深い関心を持ち、積極的に学びました。このことは、彼女が単なる一介の歌人ではなく、多方面にわたる芸術や文化に通じた、豊かな知性と感性を持つ人物であったことを物語っています。彼女の多様な学びは、きっとその歌作にも影響を与え、深みや彩りを与えたことでしょう。

高畠式部が生涯で詠んだ歌は、歌集としてまとめられ後世に伝えられています。代表的な歌集としては、『麦の舎集（むぎのやしゅう）』や『式部蓮月二女和歌集（しきぶれんげつにじょわかしゅう）』などが知られています。（『式部蓮月二女和歌集』は、大田垣蓮月との共編歌集と考えられています）。これらの歌集からは、幕末・明治という時代の移り変わりの中で、彼女が感じ、考えたことが読み取れることでしょう。彼女の歌が具体的にどのような内容であったか、どのような特色を持っていたかといった詳細については、これらの歌集研究を待つ必要があります。

九十有余年の長い生涯を歌とともに歩んだ高畠式部は、明治十四年（一八八一年）五月二十八日にその息を引き取りました。彼女の永眠の地は、古都・京都にあります。墓所は、京都市東山区円山町に位置する時宗の寺院、黄台山長楽寺（おうだいさん ちょうらくじ）に営まれました。現在もこの静かな境内で、彼女が生涯をかけて詠み続けた歌に思いを馳せることができます。

高畠式部は、幕末から明治にかけての激動の時代を、歌を杖として生き抜いた女性歌人です。二人の大家に学び、歌以外にも多方面の芸術文化に通じたその生涯は、当時の女性教養人、特に歌人のあり方を示す貴重な一例と言えるでしょう。その歌集を繑（ひもと）くことで、彼女の生きた時代やその内面に触れることができるかもしれません。

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