高移動度群タンパク質

高移動度群タンパク質（HMG protein）

高移動度群タンパク質（High-Mobility Group protein、略称HMG protein）は、真核生物の細胞核内に存在する、染色体DNAに結合する性質を持つタンパク質の重要なグループです。この名称は、哺乳類細胞から初めて単離された際に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動という分析手法において、比較的速く移動したことに由来しています。

HMGタンパク質は、DNAを鋳型として行われる様々な生命活動の調節において中心的な役割を担っています。具体的には、遺伝情報のコピーであるDNA複製、遺伝子からRNAを合成する転写、DNAの損傷を修復する過程、そして遺伝子の多様性を生み出すDNA組換えなど、細胞の生存と機能に不可欠な生化学的プロセスに関与しています。

構造とDNAへの結合

HMGタンパク質は、DNAに対して特異的な結合様式を示し、その立体構造を変化させることで機能を発揮します。特に重要なのは、DNAを屈曲させたり、ねじれさせたり、あるいはループ構造を形成させたりする能力です。これにより、DNAに結合する他のタンパク質（例えば転写因子など）がアクセスしやすくなったり、特定の領域での反応が促進されたりします。

HMGタンパク質の機能において特徴的な要素の一つが「HMGボックス（High Mobility Group box）」と呼ばれるドメインです。これはDNA結合ドメインの一種であり、多くのHMGファミリータンパク質に含まれています。HMGボックスは、一般的に3つのアルファヘリックスがループで連結された構造をしています。このドメインは、一般的な二重らせん構造（B型DNA）ではなく、よりねじれたり巻き戻されたりした非B型DNA構造に高い親和性で結合する特徴があります。HMGボックスドメインを持つタンパク質がDNAに結合する際には、DNA鎖を大きく屈曲させることが知られています。

スーパーファミリーによる分類

HMGタンパク質は、それぞれ異なる特徴的な機能ドメインの存在に基づき、主に以下の3つのスーパーファミリーに分類されます。これらのいずれかのドメインを持つタンパク質は、「HMGモチーフタンパク質」と呼ばれることもあります。

高移動度群ATフックタンパク質（HMGA）

このグループは、ATフックと呼ばれるドメインを持つタンパク質を含みます。ATフックドメインは、DNAのA-T塩基対が連続する領域（ATリッチ領域）に結合する性質があります。

HMGA1
HMGA2

高移動度群ボックスタンパク質（HMGB）

このグループは、前述のHMGボックスドメインを持つタンパク質で構成されます。HMGBタンパク質は、DNAの立体構造変化を誘導することにより、様々な核内プロセスを調節します。

HMGB1: このタンパク質は、核内での機能に加えて、細胞外に放出されるとケモカイン（特定の細胞を誘導する分子）として働き、特に感染した組織などで炎症性の免疫細胞（好中球や単球など）を呼び寄せる役割も果たすことが報告されています。
HMGB2
HMGB3
HMGB4
SRY: ヒトの性決定に関わる遺伝子産物であり、HMGボックスを持っています。

高移動度群ヌクレオソーム結合タンパク質（HMGN）

このグループは、ヌクレオソーム結合ドメインと呼ばれるドメインを持つタンパク質を含みます。ヌクレオソームは、DNAがヒストンタンパク質に巻き付いた染色体の基本単位であり、HMGNタンパク質はヌクレオソームに結合することで、染色体の構造や遺伝子発現の調節に関与します。

HMGN1
HMGN2
HMGN3
* HMGN4

疾患との関連

HMGタンパク質は、その機能の重要性から、ヒトの様々な疾患との関連が指摘されています。例えば、一部のHMGAタンパク質をコードする遺伝子の構造異常（破壊や再構成）は、しばしば一般的な良性腫瘍の発生に関与していることが知られています。また、自己免疫疾患の患者においては、自身のHMGタンパク質に対する抗体が見つかることもあります。

これらの知見から、HMGタンパク質は細胞内の基本プロセスだけでなく、病態の進行においても重要な役割を果たしていることが示唆されており、今後の研究が待たれます。

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