高速徹甲弾

高速徹甲弾（HVAP/APCR）

高速徹甲弾（HVAP：High Velocity Armor Piercing）または硬芯徹甲弾（APCR：Armor Piercing Composite Rigid）は、戦車砲や航空機関砲で使用される、装甲貫徹に特化した砲弾です。その設計思想と構造、歴史的経緯、そして現代における利用について解説します。

理論

装甲貫徹力は、おおむね砲弾が目標に命中した際の運動エネルギーに比例します。運動エネルギーは速度の二乗と質量に比例して増加するため、同じ運動量を砲弾に与える場合、質量を増やすよりも速度を向上させる方が、運動エネルギー（すなわち装甲貫徹力）を効率的に高めることができます。

砲弾の質量増加（口径の拡大）は、砲が受け止める反動の増大、人力装填の困難化、砲システムの大型化・複雑化といった問題を引き起こします。そのため、速度向上による貫徹力強化は、これらの問題を回避する上で有効な手段と言えます。

構造

HVAP弾やAPCR弾は、タングステン合金、劣化ウラン合金、鋼鉄などの高密度な重金属で作られた弾芯と、軽金属製の弾体で構成されています。弾体全体の質量を軽量化することで、高い初速を得ています。

しかし、HVAP/APCR弾は、近距離では高い貫徹力を発揮するものの、比重の低さから距離が離れるにつれて急速に威力が低下します。一定以上の距離では、通常の徹甲弾よりも性能が劣る場合があります。

歴史

第二次世界大戦中、ドイツ軍、ソ連軍、アメリカ軍などでHVAP弾/APCR弾が使用されました。しかし、APDS（装弾筒付徹甲弾）やAPFSDS（装弾筒付翼安定徹甲弾）といった、より高性能な徹甲弾が開発されたことにより、戦車砲弾としてのHVAP/APCR弾は次第に姿を消していきました。

ただし、HVAP/APCR弾は、発射時に分離する装弾筒を必要としないため、航空機関砲においては現在でも使用されています。航空機搭載機関砲の徹甲弾として、その高速性と構造の単純さが評価されているのです。

関連項目

徹甲弾
砲弾

もう一度検索