高麗葬

高麗葬とは

高麗葬（こうらいそう）とは、19世紀末の朝鮮において、老人を山に捨てるという風習があったとする説のことです。この説は、1882年に出版されたアメリカ人学者ウィリアム・グリフィスの著書『隠者の国・朝鮮』によって初めて紹介されました。しかし、今日に至るまで、高麗葬の存在を裏付ける歴史的な記録や証拠は見つかっていません。そのため、現代の韓国では、高麗葬は近代日本による歴史歪曲の一つとされています。

グリフィスの主張

グリフィスは、著書の中で、高麗葬を「日本でも17世紀頃まで存在し、朝鮮では依然として続いている、老人を生きたまま埋める習慣」と記述し、人身御供のような迷信だと主張しました。彼は、この風習を朝鮮の未開性を示すものとして描写し、西洋の進んだ文化との対比を強調しました。

高麗葬を扱った作品

高麗葬の風習は、1919年に発行された『伝説の朝鮮』に収録された童話「不幸息子」や、1924年に朝鮮総督府が発行した『朝鮮童話集』に収録された「親を捨てる男」など、日本の作品にも登場しました。これらの物語では、老いた親を高麗葬で山に捨てた親を子が諭すという内容で、道徳的な教訓を語るものとして描かれています。

また、近代の韓国の小説や映画にも高麗葬をモチーフにした作品があります。例えば、1963年に公開された金綺泳監督の映画『高麗葬』では、飢饉に苦しむ大家族の中で、老いた後妻が死を迫られる様子が描かれています。また、1978年には全商国が短編小説『高麗葬』を発表し、これは『韓国現代短編小説』に収録されています。これらの作品では、高麗葬は、過酷な状況下における人間の倫理観や家族関係を描くための象徴として用いられています。

歴史的考証

高麗葬が実際に存在したとする説を裏付ける歴史的な証拠は、現在のところ発見されていません。高麗時代には忠孝の思想が重視されており、親不孝は重罪として罰せられていました。そのため、現代の韓国では、高麗葬の話は、日本統治時代に流布された作り話であり、「日帝植民史観」の産物であると考えられています。

まとめ

高麗葬は、19世紀末の朝鮮における架空の風習であり、歴史的な根拠を持たないことがわかっています。しかし、この物語は、小説や映画など様々なメディアを通じて広まり、今日まで語り継がれています。高麗葬の物語は、当時の社会情勢や文化、倫理観を考察する上で重要な手がかりとなるかもしれません。

参考文献

Griffis, William Elliot (2011), Corea the Hermit Nation, Kessinger Publishing, ISBN 978-1169852068 （原書は1894年公刊）
『国立国会図書館デジタルコレクション 伝説の朝鮮』博文館〈朝鮮民俗資料 ; 第2編〉、1919年。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/959521/122 国立国会図書館デジタルコレクション。
朝鮮総督府 編『国立国会図書館デジタルコレクション 朝鮮童話集』朝鮮総督府〈朝鮮民俗資料 ; 第2編〉、1924年。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1906801/60 国立国会図書館デジタルコレクション。

関連項目

うばすてやま

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