髢

髢（かもじ）

髢（かもじ）とは、髪を結い上げたり、豊かに垂らしたりする際に、自らの髪（地毛）だけでは十分な量や長さが得られない部分を補うために用いられる添え髪、あるいは義髪を指します。古くから髪形を整え、美しく見せるための重要な道具として使用されてきました。

概要

現代においては、特に日本の女性が伝統的な日本髪を結い上げる際に多用されています。その材料としては、人毛が一般的ですが、牛の尻尾の毛が用いられることもあります。頭部全体を覆う「かつら」とは基本的に異なるものとして扱われますが、歴史的には両者の間に明確な区別が存在しなかった時代もあったとされています。その語源は、「かつら」を表す女房言葉に「文字」が付け加えられた「か文字」という言葉に由来すると考えられており、そのため現代でも「髪文字」という当て字が用いられる場合があります。

歴史

髢は古くから、髪を結う際に全体の形を整えたり、ボリュームを出したりするために用いられてきました。神話においても、『古事記』や『日本書紀』に登場する天鈿女命が、天岩戸の前で神楽を舞う際に頭に巻いたとされる「真拆の葛」（テイカカズラの蔓とされる）が、髢あるいはかつらの原型の一つと見る説も存在します。

律令制下で、六位以下の女性の服制に定められていた「義髻（ぎけい）」と呼ばれる添え髪も、髢の一種と考えられています。平安時代には、特に女性が豊かで長い垂髪（おすべらかしなど）を作るために、地毛に髢を加えていたとされています。これは、当時の女性の美の基準であった長く豊かな黒髪を実現するために不可欠なものでした。

その後、時代が下ると、髢は結髪と垂髪の両方に幅広く用いられるようになりました。結髪においては、髷（まげ）の根元部分にボリュームを持たせるために用いた「根髢（ねかもじ）」や、顔の横の鬢（びん）を豊かに見せるための蓑（みの）状の「鬢蓑（びんみの）」などがよく知られています。また、垂髪においては、宮廷などで行われたおすべらかしで、背中に長く垂らす部分にボリュームと長さを加える「長髢（ながかもじ）」や、前髪を額に沿って平らに整えるための「丸髢（まるかもじ）」などが用いられていました。

江戸時代になると、髢の製造・販売を専門とする「髢屋（かもじや）」が登場し、庶民の間にも広く普及しました。髢屋の店頭には、風でくるくると回る大きな筆の看板が目印として掲げられていたといいます。髢の材料となる人毛は、女性が売った髪や、洗髪などで抜け落ちた髪を専門に集める「漉き髪買い（すきがみかい）」から仕入れられていました。

現代における状況

しかし、昭和期に入り、日本髪を結う機会が減少するにつれて、髢が一般的に用いられることも少なくなりました。現代では、日本髪が必要な場面でも、手軽に着用できるかつらが代用されるケースが多く見られます。それでも、神社の巫女のように伝統的な髪形を維持する職業の女性や、特定の伝統芸能において日本髪を結う際など、地毛をより豊かに見せたい場合などには、現在でも髢が使われることがあります。

また、特別な例としては、大相撲の床山が力士の髪を結う際に使う「梳き櫛（すきぐし）」に、髪の根元のフケや細かい汚れを取り除く目的で小さな髢が取り付けられていることがあります。これは、相撲の髪結いにおける伝統的な技法の一つです。

このように、髢は日本の伝統的な髪形を支える添え髪として、長い歴史を持つ装身具であり、形を変えながらも現代にその名残をとどめています。

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