髪結い伊三次捕物余話

髪結い伊三次捕物余話

「髪結い伊三次捕物余話」は宇江佐真理による時代小説のシリーズで、1997年に発表されたデビュー作「幻の声」を皮切りに始まりました。このシリーズは、主人公である廻り髪結いの町人・伊三次が日常生活の中でさまざまな事件に関わり、解決していく姿を描いた作品群です。全体として連作短編の形を取り、各巻ごとに5編から6編の物語が収められています。特に第14作目となる『月は誰のもの』は、シリーズ初の長編作品としても注目されています。

シリーズの内容を通じて描かれるのは、伊三次が持つ特異な職業、そして彼の裏の顔ともいえる北町奉行所の同心・不破友之進との関係です。伊三次は、食べるために自らの髪結いの技術を駆使しつつ、不破から依頼された事件の解決にも取り組むことになります。彼には芸者である恋人・お文が存在し、理想的な家庭を持つことを強く望む一方で、生活は厳しく、日々の仕事に奔走しています。

このシリーズは、1999年に中村橋之助主演でテレビドラマ化されたほか、NHKラジオでもオーディオドラマとして放送されました。作中では、伊三次が成長し、物語が進むにつれて彼の周囲の人々との関係性や個々の人生の変遷も描かれており、大きな魅力の一つです。

登場人物の紹介

伊三次（いさじ）

主人公。髪結いの町人であり、北町奉行所の同心・不破の小者としても働く。彼は甘い物が好きで、下戸な性格を持つ。家族を持つことを夢見て努力し、日々の忙しさに追われながらも成長していく姿が描かれます。

お文（おぶん）

伊三次の恋人である芸者。彼女は男勝りな性格を持ち、伊三次との関係においても強い意志を持っています。お文の家は火事により全焼し、これを機に二人は共同生活を始めます。

不破 友之進（ふわ とものしん）

北町奉行の同心で、伊三次の友人。最初は簡単な仕事の手伝いを依頼するものの、事件が進行するにつれ、次第に難解な問題に関与することになります。彼の存在は、伊三次のキャラクターを引き立てる重要な要素です。

作品の魅力

「髪結い伊三次捕物余話」は、主人公の成長物語としてだけでなく、江戸時代の文化や人間模様も豊かに描かれていて、読者を古き良き時代へと誘います。連作短編のため、短い時間で読み進めやすく、各話それぞれが独立したストーリーを持つため、興味のあるエピソードから読んでも楽しめます。また、キャラクターたちが年齢を重ねる様子も描かれており、読者は彼らの人生を追体験することができます。

未完の作品

宇江佐真理の死去に伴い、第16作『擬宝珠のある橋』を最後にこのシリーズは未完となってしまいました。作者自身が伊三次について深い愛着を持っていたことが伺え、一層の感慨を覚える作品となっています。シリーズのファンにとって、今後の作品に対する期待と未完のままとなった物語への惜しさが交錯することでしょう。このシリーズは、多くの人に愛される魅力的な物語を提供し続けることでしょう。

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