鬱 (アルバム)

ピンク・フロイドのアルバム『鬱（A Momentary Lapse of Reason）』は、1987年に発表されました。このアルバムは、ロジャー・ウォーターズの脱退と、その後のバンドの存続を巡る法廷闘争という激動の時期を経てリリースされました。新生ピンク・フロイドとして再出発を飾る作品として、当時大きな注目を集めました。

活動再開までの道のり

前作『ファイナル・カット』発表後、1985年にロジャー・ウォーターズが正式にバンドを脱退。残されたデヴィッド・ギルモアとニック・メイスンは、バンドの存続と新作のレコーディングを発表しました。しかし、ウォーターズは自身こそがピンク・フロイドであると主張し、バンド名の使用差し止めを求めて訴訟を起こします。最終的には、フロイド側がウォーターズに使用料を支払い、『ザ・ウォール』の権利をウォーターズが独占するという条件で和解。ギルモア主導による新たなピンク・フロイドが動き出すことになりました。

アルバム概要

本作はピンク・フロイド名義ではあるものの、多数のサポートミュージシャンが参加して制作されました。トニー・レヴィン（ベース）、カーマイン・アピス、ジム・ケルトナー（ドラム）などがその代表です。過去の大作主義的なコンセプトは薄れ、コンパクトな楽曲が中心となっています。音楽的には、1970年代のプログレッシブ・ロックへの回帰が見られる一方で、当時の音楽シーンの要素も取り入れられています。プロデューサーには、『ザ・ウォール』以来となるボブ・エズリンが参加し、新たなフロイド・サウンドの構築に貢献しました。

作詞を担当していたウォーターズの脱退後、リーダーとなったギルモアが作詞も担当することになります。しかし、作詞経験の少なかったギルモアは苦労を強いられ、アンソニー・ムーア（元スラップ・ハッピー）の協力を得て、ウォーターズのようなシニカルな歌詞を生み出すことに成功しました。

当時の正式メンバーは、デヴィッド・ギルモアとニック・メイスンの2名のみで、リチャード・ライトはサポートミュージシャンとしてツアーに参加しています。ギルモアは後に、メイスンとライトはレコーディングにはほとんど参加しておらず、自身の演奏と他のミュージシャンの演奏が中心であったことを認めています。

アルバム・ジャケット

このアルバムでは、ストーム・ソーガソン（ヒプノシス）がピンク・フロイドのジャケットデザインに復帰。「ベッドの川」を表現したジャケットは、CGではなく、実際に700以上のベッドをイギリスのデボン州の海岸に並べて撮影されました。

ソーガソンによれば、ベッドを並べ終えた直後に雨が降り出し、急いで回収して再度並べ直すという苦労があったそうです。彼は当時を振り返り、「悪夢だった」と語っています。

評価

ギルモア主導のフロイドに対し、ロジャー・ウォーターズは本作を「非常に精巧に作られたピンク・フロイドの贋作」と酷評しました。ローリング・ストーン誌など、否定的な評価を下すメディアも存在しました。

しかし、アルバムは全英・全米チャートで3位を記録する大ヒットとなり、ワールドツアーも成功を収めました。ツアーは好評だったため追加公演も決定し、1989年までロングツアーが行われました。1988年には3度目の来日公演も行われましたが、現在に至るまで、これがピンク・フロイド最後の日本公演となっています。

収録トラック

Sign Of The Times
A New Machine Part 1
Terminal Frost
A New Machine Part 2

外部リンク

* A Momentary Lapse Of Reason - Discogs (発売一覧)

もう一度検索