鬼剣舞

鬼剣舞（おにけんばい）とは

岩手県北上市周辺に伝わる伝統芸能で、念仏踊りをルーツとしています。地元では「けんべぇ」とも呼ばれ、夏の祭りや運動会などで盛んに披露されています。1993年には、北上市の岩崎鬼剣舞と滑田鬼剣舞、奥州市の朴ノ木沢念仏剣舞と川西大念佛剣舞の4団体が、国の重要無形民俗文化財「鬼剣舞」として一括指定されました。

概要

鬼剣舞は、念仏踊りから派生したもので、正式には念仏剣舞の一種です。しかし、鬼のような面をつけ勇壮に踊る姿から、明治後期頃に「鬼剣舞」と呼ばれるようになりました。かつては男性が中心でしたが、近年では女性の演者も増えています。

この踊りの特徴的な歩法には、修験道の鎮魂呪術である「反閇（へんばい）」が用いられています。これは、大地を踏みしめ悪魔を鎮め、場の気を清める意味を持つ呪術的な歩行です。また、念仏によって霊を成仏させ、災厄を防ぐという浄土教由来の信仰的な要素も含まれています。

編成

鬼剣舞の編成は、庭元（座元）、囃子方（太鼓1人、笛1～6人、手平鉦1～2人）、踊り手（基本8人）で構成されます。さらに、道化の面をつけたカッカタや、晴れ着を着た少年少女の胴取りが加わるのが本来の姿とされています。念仏は太鼓と手平鉦が担当します。

鬼の面

鬼剣舞で使用される面は、五色で彩られています。鬼ではなく仏の化身を表しており、角はありません。色は陰陽五行説に基づいており、四季や方位、五大明王を象徴しています。具体的には、青面は東、春、降三世明王、赤面は夏、南、軍荼利明王、白面は西、秋、大威徳明王、黒面は北、冬、金剛夜叉明王、黄面はカッカタ（道化面）で不動明王を表します。踊り手の中心となる白面は一人だけで、最も踊りの上手い人が担当します。白面をつけた踊り手は「一剣舞（いちけんばい）」と呼ばれ、一人加護という特別な踊りを踊ることが許されています。

装束

現在の鬼剣舞の装束は、昭和初期に確立されました。それ以前は、胆沢地方に伝わる念仏剣舞と同様の出で立ちでした。格子模様の「身ごろ」に赤い「平口袖」、紺地に白の竜胆模様の「胸当」、「広口袴」を着用し、「白の帯」を締め、赤い「たすき」をかけます。後腰には「大口ゴザ」、「脱垂」を結び、「大刀」を上反りに差します。すねには「脚絆」、足には「白足袋」に「わらじ」を履きます。顔には白布の「オトゲ回し」、頭には「毛采」と白布の「鉢巻」、そして「面」をつけます。腕には「鎖帷子」、手には「手甲」をつけ、左手中指には「赤い金剛杵」を挟み、右手には「扇子」を持ちます。

鬼剣舞の演目

演目の種類は踊り組によって異なりますが、代表的なものとしては以下のものがあります。

一番庭：基本となる踊りで、礼舞とも呼ばれます。扇の舞から始まり、三踊り、扇の輪踊りへと展開します。元々は悪魔を払う呪術の所作が含まれていました。
一番庭の狂い：扇を高く合わせる優雅な踊りで、一番庭を裏から支える役割を持ちます。
二番庭：神社仏閣への参拝の際に最初に踊られるもので、一番庭よりも華やかで激しい動きが特徴です。
三番庭：一列で庭に入り、早念仏・せんや念仏を唱えながら踊る勇壮な踊りです。元々は金剛杵の呪術が組み込まれていました。
三番庭の狂い：変化に富んだ曲と軽快で活気に満ちた踊りです。扇の舞と素手の舞で構成され、二人で組んだり離れたりしながら舞います。
刀剣舞：太刀踊りが中心の勇壮な踊りで、一番庭とは対照的な力強さが特徴です。
刀剣舞の狂い：太刀を激しく打ち合わせ、武技を競う様子を表現した踊りです。
一人加護：白面（一剣舞）のみが一人で踊る、鬼剣舞を代表する演目の一つです。扇の舞、刀の舞、素手の舞の三部構成となっています。
二人加護：八人加護を二人で踊るもので、刀のかいくぐりなど、八人加護とは異なる要素があります。
三人加護：扇の舞、幣舞など、悪魔退散や五穀豊穣を祈る要素を含む踊りです。
八人加護：八人が輪になり、刀をかいくぐりながら踊る勇壮な演目です。
狐剣舞：狐の面をつけた一人舞で、急病で踊り手が欠けた際に狐が代わりを務めたという伝説が由来です。神秘的な雰囲気と激しい跳躍が特徴です。
ムギリ：太刀を持った3人（または2人）が輪になって踊る演目です。
宙返り：太刀をかざし大きく回転する曲芸的な踊りです。
カニムクリ：宙返りや車座など、曲芸的な要素を取り入れた演目です。
膳舞：膳や盆を持って踊る余興的な演目です。
カッカタ：道化の面をつけた踊り手が、金剛杖を持って飛び跳ねる息抜き的な演目です。
胴取り：雛子剣舞の少女が踊るイメージで、太鼓を打つ所作を取り入れた踊りです。
梯子踊り：かつては存在したが、現在は中止されている演目です。
三島踊り：田村麻呂と大武丸の戦いに女性が介入する踊りで、神楽を剣舞化したものと言われています。

鬼剣舞の伝承系統

鬼剣舞の踊り組は、岩手県北上市を中心に、県内外、そして海外にも広がっています。

主な系統

南下幅念仏剣舞：鬼剣舞の源流となった念仏剣舞の踊り組です。
岩崎鬼剣舞：鬼剣舞の元祖とされる踊り組で、多くの踊り組に影響を与えています。
滑田鬼剣舞：岩崎鬼剣舞から派生し、独自の演目や特徴を持つ踊り組です。

これらの系統を中心に、様々な踊り組が活動しています。各踊り組は、それぞれの地域や歴史の中で、独自の特色を加えながら鬼剣舞を伝承しています。

その他の主な踊り組

相去鬼剣舞、御免町鬼剣舞、飯豊鬼剣舞、鬼柳鬼剣舞、谷地鬼剣舞、村崎野鬼剣舞、南笹間鬼剣舞、北藤根鬼剣舞、長沼鬼剣舞、二子鬼剣舞、湯本鬼剣舞、口内鬼剣舞、黒澤尻鬼剣舞などがあります。また、函館、東京、京都、札幌、佐渡、名古屋にも団体が存在します。さらに、パラグアイなど海外にも鬼剣舞の踊り組が存在しています。

鬼剣舞は、地域の文化を代表する貴重な無形文化財であり、今後もその継承と発展が期待されています。

鬼剣舞が登場する創作

鬼剣舞は、時代劇や漫画など、様々な創作作品にも登場しています。

時代劇：『暴れん坊将軍II』や『水戸黄門』に登場。
漫画：篠原ウミハル作の『鬼踊れ!!』。
青森ねぶた：サンロード青森のねぶた「北の炎 『阿弖流為』」の送り絵に登場。

実際の鬼剣舞が登場する作品

映画：『男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎』に登場。

脚注

詳細な情報や各踊り組の活動については、関連ウェブサイトや文献を参照ください。

関連項目

鼓童
鹿踊

外部リンク

鬼剣舞（北上観光協会）
黒沢尻鬼剣舞

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