大武丸

大武丸とは

大武丸（おおたけまる）は、主に東北地方に伝わる伝説上の人物です。岩手山の鬼として知られる一方、蝦夷の首長であったとも伝えられています。坂上田村麻呂による蝦夷征討の伝説に登場し、各地で様々な異名や関連する伝承が語り継がれています。

岩手山と大武丸

岩手山には、大武丸が棲んでいたとされる鬼ヶ城の伝説が残っています。また、田村麻呂が岩鷲大夫権現として現れたという伝説も存在します。この伝説は、古浄瑠璃の影響を受けて近世に創出されたという説もあります。

中世の岩手山では、栗谷川氏が祭礼を司っていました。岩手山の縁起には、田村麻呂の鬼退治と源氏の安倍征討が語られています。この縁起は、工藤・斎藤家によって作成され、江戸時代初期に転写されたと考えられています。

近世になると、盛岡藩が岩手山を「領内総鎮守」として重視し、山頂に奥宮を、城下に新山堂を建立しました。祭礼には修験が関与するようになり、岩手山の縁起も変化していきました。

各地の伝承と異称

大武丸は、東北各地で様々な異名や伝承を持っています。鈴鹿山の鬼神「大嶽丸」と同名で伝えられることもあります。また、悪路王と混同されることもあります。伊能嘉矩は、これらの名称が転訛したものであり、本来は一つの対象を指していたと結論付けています。根岸英之は、「オオタケマル」という名称が「偉大で猛々しい男」を意味すると解釈し、山に属性を持つ鬼神信仰が背景にあるとしています。

岩手県

人首丸伝説: 奥州市江刺米里には、大武丸の息子・人首丸に由来する地名が残っています。人首丸は、大武丸の死後も抵抗を続けたと伝えられています。
大岳丸伝説: 江刺梁川には、大嶽丸が落ち延びてきたという伝説が残っており、「大岳」や「武道坂」といった地名も存在します。
衣川の善城: 奥州市衣川には、「大武麿」の拠点とされた「善城」という山があります。
鬼死骸村: 一関市には、大武丸の体を埋めたとされる鬼死骸村があります。この地には、鹿島神社や鬼石といった伝説に関連するものが残っています。

宮城県

鬼首村: 大崎市には、大武丸の首が飛んで落ちたという鬼首村があります。この名称は「鬼切部」がなまったという説もあります。
南方町の興福寺: 登米市南方町には、大武丸の首を埋めたとされる興福寺があります。この寺は、田村将軍が観音に祈って大武丸を討ったという伝説に由来しています。また、柳沢区には、大武丸が角を引っ掛けて降参したという「角掛桜」の伝説があります。

秋田県

出羽国房住山: 三種町と能代市にまたがる房住山には、大長丸という鬼が住んでいたという伝説があります。この鬼は、坂上田村麻呂に討たれたとされています。

福島県

半田の赤頭太郎: 伊達郡桑折町には、大竹丸の弟である赤頭太郎を祀る益子神社があります。また、赤瀬太郎を顕彰した碑も残っています。

史実と伝説

大武丸の伝説は、史実と混ざり合い、地域ごとに独自の物語を形成しています。一部の伝説は、江戸時代に広まった奥浄瑠璃『田村三代記』の影響を受けていると考えられています。また、宗教的な要素や、特定の家の語りが加わることで、より複雑な物語へと変化していきました。

大武丸は、単なる鬼や悪者としてだけでなく、山に住む神や、地域を守る存在として捉えられることもあります。その多様な姿は、人々の畏怖や憧憬、そして歴史への関心を反映していると言えるでしょう。

まとめ

大武丸は、東北地方の各地で語り継がれる伝説上の人物であり、その実態は必ずしも明確ではありません。しかし、その伝説は、地域の人々の歴史観や文化、そして自然に対する畏敬の念を伝えています。今後も、大武丸の物語は語り継がれ、その多様な解釈は、人々の想像力を刺激し続けるでしょう。

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