魔像・十七の首

『魔像・十七の首』

『魔像・十七の首』（まぞう・じゅうななのくび）は、1969年に朝日放送によって制作・放送された連続テレビ時代劇です。

作品の背景と成り立ち

本作の根幹となっているのは、著名な時代小説作家である林不忘（はやし ふぼう）の手による「新版大岡政談 魔像」という作品です。この物語は、特に戦前から戦後にかけての日本映画界で一時代を築いた大スター、阪東妻三郎（ばんどう つまさぶろう）が主演した映画シリーズとしてもよく知られています。阪東妻三郎は「魔像」を題材とした映画を生涯で三度にわたり製作しており、そのいずれもが彼の代表作として評価されています。

テレビドラマ版『魔像・十七の首』が世に送り出されたのは1969年。この年は偶然にも、名優・阪東妻三郎の十七回忌にあたる年でした。このテレビシリーズの制作には、往年の映画スターの偉大な功績を顕彰し、彼の代表的な持ち役であった茨右近の物語を、当時普及が進んでいたテレビという新しいメディアを通して、より多くの人々に改めて紹介しようという追悼と記念の意図が込められていたと考えられます。

放送形式と提供

本作品は、西宮酒造株式会社（現在の日本盛株式会社）が一社提供する番組として放送されました。当時のテレビ界では、有力企業による一社提供番組が数多く存在し、特に連続ドラマにおいては、安定した資金提供が作品製作の基盤となっていました。放送された枠は『ニホンサカリアワー』と名付けられており、これもまた提供社の名前を冠した当時のテレビ放送の特徴を示す一例と言えるでしょう。

主要な出演者と注目点

主人公である謎の剣士、茨右近（いばら うこん）を演じたのは、阪東妻三郎の長男であり、父の跡を継いで俳優の道を歩み、その実力で確固たる地位を築いていた田村高廣（たむら たかひろ）です。父が演じた名役を、息子が新たな解釈で演じるという点でも、当時大きな話題となりました。

そして、この作品で最も特筆すべきは、田村高廣を含めた『田村三兄弟』が、テレビ時代劇というジャンルにおいて初めて顔を揃えたという事実です。後に多くの名作や話題作で主役を務めることになる田村正和（たむら まさかず）もこの作品に出演しており、往年の大スターの息子たちが一堂に会したことは、当時の視聴者やメディアから大きな注目を集めました。彼らの共演は、日本の俳優史における貴重な記録の一つとなっています。

田村兄弟のほかにも、豪華な俳優陣が脇を固めています。宇津宮雅代、渡辺美佐子、松山省二、吉行和子といった、当時の映画やテレビドラマで活躍していた個性豊かな俳優たちが作品世界に深みを与えました。さらに、阪東妻三郎と共に時代劇黄金期を支え、後には萬屋錦之介（よろずや きんのすけ）として知られる中村錦之助も出演しており、作品全体の格を高めています。

作品が持つ歴史的意義

『魔像・十七の首』は、単なる時代劇の映像化にとどまらず、父から子へと受け継がれる芸の系譜、そして映画からテレビへのメディアシフトという時代の大きな流れを象徴する作品です。往年の名作が新しい世代の俳優たちの手によって現代に蘇り、かつ名優への追悼企画として実現したこのシリーズは、日本の映像文化史において独特な位置を占めています。田村三兄弟の貴重な初共演作品としても、その資料的価値、歴史的意義は大きいと言えるでしょう。

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