魔女に与える鉄槌

『魔女に与える鉄槌』（Malleus Maleficarum）は、15世紀にドミニコ会士ハインリヒ・クラーマーによって著された魔女に関する論文です。序文にはヤーコプ・シュプレンガーの名前も記されていますが、実際にはクラーマーが主著者であり、シュプレンガーは自身の名声を箔付けに利用されたと考えられています。

概説

1486年にクラーマーによって執筆され、翌年には序文が加えられて出版されました。本書は、中世の魔女観を体系的にまとめたものとして知られ、ヨーハン・ニーダーの『蟻塚』と並び、中世における魔女関連の代表的な文献です。

執筆の目的は、魔女の存在を疑う人々への反論、女性が男性よりも魔女になりやすいという主張、そして魔女の発見と裁判の手順を明らかにすることでした。現代の研究では、シュプレンガーはほとんど関与しておらず、クラーマーがほぼ全てを執筆したとされています。実際、シュプレンガーはクラーマーの活動を快く思っておらず、彼の説教を禁じたという記録もあります。

1484年、教皇インノケンティウス8世は、魔女狩りの許可を求めるクラーマーに対し、回勅「限りなき願いをもって」を与えました。クラーマーはこの回勅を『魔女に与える鉄槌』の序文に転用し、教皇のお墨付きを得ているかのような印象を与えました。しかし、回勅は本来、クラーマーとシュプレンガーの審問官としての役割を認めるものでした。この回勅が魔女の存在と弾劾を認めたことが、魔女狩りの時代を招いた一因となりました。

1487年、クラーマーはケルン大学神学部に本書の学術的承認を求めました。4人の教授が内容を認めましたが、大学としての正式な認定ではありませんでした。クラーマーはこれを「ケルン大学の承認」と宣伝しましたが、後に大学側はこの鑑定を誤りとして訂正しようとしました。このため、8人の教授の鑑定書は捏造されたという説も生まれました。

1490年、教会の異端審問部はクラーマーを弾劾しましたが、本書は魔女狩りの手引書として読まれ続け、1487年から1669年までに多数の版が刊行されました。

内容

本書は、既存の異端に関する説を組み合わせ、注釈を加えた百科全書的な書物です。特徴として、通常の異端審問とは異なり、黒魔術などの邪術に焦点を当て、異端や邪悪の根源を女性に求めている点が挙げられます。

『魔女に与える鉄槌』は全三部で構成されています。

第一部：魔女の定義と能力に関する問題
第二部：魔女の悪行の事例と産婆との関係
* 第三部：魔女狩りの方法と裁判の手引き

本書は魔女狩りを正当化する根拠として利用され、多くの人々が魔女として告発され、処刑される悲劇を生み出す一因となりました。現代では、本書の内容は偏見に満ちていると認識されていますが、中世ヨーロッパの社会と魔女観を理解する上で重要な資料となっています。

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