魚の聖母

魚の聖母

『魚の聖母』（さかなのせいぼ）は、盛期ルネサンスの偉大な画家ラファエロによって創作された油彩画で、現在はマドリードのプラド美術館に保管されています。この作品は、ジョヴァンニ・バティスタ・デル・ドゥーチェの依頼で制作され、もともとはナポリのサン・ドメニコ教会のサンタ・ロサ・ダ・リマ礼拝堂のために描かれました。後に、ナポリ王であるスペイン国王フェリペ4世の所有となり、1645年にエル・エスコリアル修道院に配置されましたが、19世紀になってプラド美術館に移されました。

作品の内容

『魚の聖母』の中心には、聖母マリアが幼子イエスを膝に抱え、威厳を持った玉座に着座している姿があります。この作品には重要な聖人たちも描かれており、左側にはユーサ・ハイエロニムスがライオンの傍にひざまずき、書物を持っています。一方、右側には大天使ラファエルが立ち、彼の導きで成功した若者トビアスを聖母子に紹介しています。

トビアスは、ラファエルの導きによりティグリス川で奇跡の魚を捕獲し、その内臓が父親の目を治し、花嫁から悪魔を追い払ったという物語がこの絵に込められています。トビアスを導くラファエルは、特に若者への庇護を象徴しており、聖母マリアとイエスに対する信仰と保護を表現しています。

この作品は、1512年から1514年ころにかけて制作されたとされ、カトリック教会における『トビト記』の正典化を記念するものとも考えられています。聖ジェロームはこの書物をラテン語に翻訳したことで知られており、画面の右側に位置しています。

現在、プラド美術館ではこの作品の名称をスペイン語で「Sagrada Familia con Rafael, Tobías y San Jerónimo, o Virgen del pez」としており、日本語では『聖家族と大天使ラファエル、トビアス、聖ヒエロニムス』や『聖家族と大天使ラファエル』と呼ばれることもあります。興味深いことに、この作品には聖母子が描かれていますが、聖ヨセフは描かれていません。

版画による複製

1818年にフランスの画家ジャン＝フランソワ・バドゥローは、点描技法を用いて『魚の聖母』から聖母子のみを抽出した版画を制作しました。さらに1850年には、ピエール・プレーがエッチング技法を使用し、画面全体を模倣した版画を作成しました。この版画は『Les Vierges de Raphaël gravées par les premiers artistes français』という名の書籍に収められたものです。

プラド美術館には、この２点の版画も収蔵されており、2014年にPedro María Alberdi Buruagaから、2015年にはJosé Presedoから寄贈されました。

結論

『魚の聖母』はラファエロの技が光る作品であり、聖母マリア、聖ジェローム、大天使ラファエル、トビアスの物語を通じて、信仰と庇護のメッセージが込められています。この絵は、彼の作品の中でも特に重要な存在であり、宗教的な意義を持つとともに、美術史上でも重要な地位を占めています。

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