鮫の夏

鮫の夏 (Summer of the Shark)

2001年の夏、アメリカはサメの話題で持ちきりとなりました。この現象は「鮫の夏 (Summer of the Shark)」と呼ばれ、メディアによる過剰な報道が社会に大きな影響を与えました。

発端

2001年6月、8歳の少年ジェシー・アーボガストがオオメジロザメに襲われ、片腕を失うという痛ましい事件が発生しました。しかし、懸命な外科手術によって一命を取り留めたことが、連日メディアで報道され、サメの脅威がセンセーショナルに伝えられるようになったのです。

7月に入ると、ジェシーが襲われた場所の近くでサーファーがサメに足を噛まれる事件や、サンディエゴ沖、ロングアイランド、ハワイなど各地でサメによる攻撃が相次いで報告されました。マスメディアはこれらの事件を大々的に報道し、アメリカ国民の不安を煽りました。

メディアの報道

2001年7月30日には、アメリカのニュース雑誌『Time』が「Summer of the Shark」という特集を組みました。この記事では、サメによる襲撃事件の報告が急増していることを報じつつも、日常生活に潜む他の脅威と比較すると、サメは特段大きな脅威ではないと指摘しています。実際、アメリカにおけるサメの襲撃件数は、1998年に54件、1999年に58件、2000年に79件と推移しており、2001年の件数が突出して多かったわけではありません。しかし、メディアの過熱報道により、冷静な分析は人々の耳には届きませんでした。

9月初旬には、バージニア州で10歳の少年がサメに襲われて死亡する事件が発生しました。この事件は、アメリカの主要なニュースメディアでトップニュースとして扱われ、国民のサメへの恐怖心をさらに煽ることとなりました。

分析と教訓

しかし、実際には、2001年の世界のサメ襲撃件数は76件で、前年の85件よりも減少していました。死者数も12人から5人に減少しており、アメリカ近海での発生件数も前年とほぼ同じでした。メディアがサメの脅威を過剰に煽ったことで、実際のリスクとはかけ離れた認識が広まってしまったのです。

アメリカでは、年間約250人が落雷によって死亡しています。サメによる襲撃件数はその5分の1程度に過ぎませんが、メディアはサメの事件を大々的に報道しました。その結果、サメに対する偏見が強まり、サメの保護活動にも悪影響を及ぼしました。サメはフカヒレや水産加工品の原料として捕獲されますが、繁殖力が低いため、個体数の減少が問題となっています。

「鮫の夏」は、マスメディアが話題性ばかりを重視して報道することで、人々に現実とは異なる認識を与えてしまうことがあるという教訓を残しました。この出来事は、メディア批判の好例として語り継がれています。

なお、2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生し、アメリカはアフガニスタン侵攻やイラク戦争へと突き進んでいくことになります。その頃には、「鮫の夏」の話題は人々の記憶から薄れていきました。

参考文献

ダン・ガードナー著、田淵健太訳『リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理』 (ISBN 4152090367)

関連項目

サメによる襲撃
メディアスクラム
偏向報道
瀬戸内海サメ騒動

外部リンク

Summer of the shark? — retrospective article from Spiked Online, 24 July 2003
Survey: 'Shark summer' bred fear, not facts — CNN.com, March 14, 2003
World Shark Attacks Sink For Second Year In Row — February 6, 2003

もう一度検索