瀬戸内海サメ騒動

瀬戸内海サメ騒動：愛媛県沖の悲劇と騒動の記録

1992年3月8日、愛媛県松山市沖の瀬戸内海で発生したホホジロザメによる獣害事故は、日本社会に大きな衝撃を与えました。この事故は、単なる海の事故に留まらず、その後の漁業、観光、そして人々の心理にまで深い影響を及ぼす大騒動へと発展しました。

事故の発生と犠牲

事故当日、タイラギ潜水漁をしていた男性潜水夫A（当時41歳）が、水深約20mの海底でサメに襲われ行方不明となりました。Aは後にホホジロザメに襲われて死亡したと判断され、これは日本近海で発生したサメによる事故の中で、襲撃したサメの種類が特定された初の事例となりました。

ホホジロザメの特定

魚類学者の鑑定により、Aを襲撃したサメは体長約5mのホホジロザメと断定されました。この事故に前後して、周辺海域ではホホジロザメと見られる巨大なサメによる襲撃事件が連続しており、一連の出来事は「瀬戸内海ホホジロザメ連続襲撃事件」とも呼ばれました。

騒動の拡大と影響

事故後、日本各地でサメの目撃情報が相次ぎ、瀬戸内海沿岸各地では漁協によるサメ退治作戦が展開されました。しかし、Aを襲ったとされる個体は捕獲されず、松山沖事故は潜水漁業だけでなく、海洋工事やレジャーなど様々な方面に衝撃を与えました。

同年夏には瀬戸内海沿岸の海水浴場が相次いで営業を中止したり、サメよけネットを設置したりする事態となりました。また、関東地方や東海地方でも海水浴場にサメよけネットを設置したり、サメ退治を行ったりする動きが出ました。さらに、瀬戸内海沿岸の学校では海での遠泳大会・水泳訓練を中止したり、自治体が児童・生徒に対し、海水浴場での遊泳を禁止したりする動きも相次ぎました。

事故後の捜索と認定

松山海上保安部は事故後、現場周辺海域でAの捜索を行いましたが、A本人の発見には至らず、行方不明から4日後に捜索を打ち切りました。その後、引きちぎられた潜水服に残っていたサメの歯の破片や傷の形状、およびそれに付着していた肉片などから、Aはサメに襲撃されて死亡したことが確実であると認定されました。この認定は、行方不明者がサメに襲われて死亡したと認定された日本初の事例となりました。

サメ捕獲作戦の展開

事故後、愛媛県は松山海上保安部、愛媛県漁業協同組合連合会などと協力して「サメ被害対策会議」を結成し、サメの捕獲を決定しました。しかし、サメの捕獲は困難を極め、様々な試みがなされたものの、Aを襲ったサメを捕獲することはできませんでした。

類似事故と影響の継続

1995年には愛知県の渥美半島沖でホホジロザメによる死亡事故が発生し、再びサメへの恐怖が高まりました。この事故を受け、各地でサメ対策が強化され、海水浴場でのサメよけネットの設置などが進められました。

騒動が教えてくれたこと

瀬戸内海サメ騒動は、自然の脅威に対する人間の無力さ、そしてそれに対する過剰な反応という、複雑な側面を浮き彫りにしました。この騒動は、私たちに自然との共存、そして冷静な危機管理の重要性を教えてくれています。


参考文献
仲谷一宏「松山のサメによる潜水士死亡事故、および日本におけるサメ被害」
矢野和成「サメと人間の良好な関係をつくるには」

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