鯨捕りの海

映画『鯨捕りの海』について

『鯨捕りの海』は、1998年に公開された梅川俊明監督によるドキュメンタリー映画です。日本の伝統的な捕鯨文化と、そこで働く人々の姿を深く掘り下げています。この映画は、単なる捕鯨の記録映像ではなく、人間の営み、食文化、そして生命の尊厳といった普遍的なテーマを提起しています。

映画製作の背景

この映画は、企画から2年の歳月をかけて製作されました。監督の梅川俊明は、元漁師の家に生まれ、数々の映画で助監督を務めた後、本作で初めて監督を務めました。1997年には、撮影スタッフが捕鯨船に半年間乗船し、32時間にも及ぶ映像を撮影しました。ドキュメンタリーであるため、事前に用意されたストーリーはなく、現場で起こる出来事をそのまま捉えています。

映画の内容

映画は、和歌山県太地町でのゴンドウクジラ漁から始まります。ここでは、第三十一純友丸に乗船する漁師たちが、伝統的な漁法でクジラを捕獲する様子が描かれています。次に、舞台は北太平洋に移り、ミンククジラの調査捕鯨と、捕獲されたクジラの解体作業が記録されます。さらに、ノルウェーのロフォーテン諸島での捕鯨の様子も描かれ、そこでの反捕鯨運動や、捕鯨を生業とする人々の苦悩が紹介されます。最後に、再び第三十一純友丸が登場し、千葉県和田浦でのツチクジラ漁が描かれます。

映画の展開

映画は、それぞれの捕鯨地での人々の生活、技術、文化を丹念に追います。太地町では、漁師たちが誇りを持って漁に励む姿や、チームワークの重要性が描かれます。北太平洋では、解体技術の高さと、生命をいただくことへの感謝が示されます。ノルウェーでは、伝統文化と環境保護との対立が浮き彫りになります。和田浦では、捕鯨が狩猟であることを改めて認識させられます。これらのシーンを通して、監督は、捕鯨を通して命の尊厳を静かに語ります。

監督の視点

監督の梅川俊明は、撮影前、捕鯨のイメージを小説『白鯨』の登場人物のように過度に興奮した男たちを想像していたと語っています。しかし、実際に現場で取材をすると、捕鯨に携わる人々は落ち着いており、命を尊び、捕獲したクジラを供養する姿があったそうです。この経験から、梅川監督は自身の偏見を反省し、「生命の尊厳は捕鯨に携わる人々に宿っている」と考えるようになりました。また、欧米からの捕鯨禁止の圧力に対し、理不尽さを感じたと述べています。さらに、捕鯨はクジラの資源状態を調べながら行われ、絶滅させないように配慮しているとも述べています。監督は、この映画を通して、捕鯨の是非を一方的に断定するのではなく、多様な価値観を認め合い、共に生きていく道を模索したいと考えています。

公開当時の評価

映画評論家の服部弘一郎は、この映画に登場する元捕鯨船員たちの言葉から、国際捕鯨委員会の商業捕鯨モラトリアムによって仕事を奪われた人々に同情し、捕鯨禁止は労働問題でもあると指摘しました。また、調査捕鯨で得られたクジラのすべての部位を無駄なく利用する日本の捕鯨文化は、調査のサンプルを有効活用する文化だと評価しました。

2010年の再評価

2010年、反捕鯨映画『ザ・コーヴ』の公開を機に、『鯨捕りの海』は再び注目を集めました。捕鯨に対する異なる視点を提供する作品として、『ザ・コーヴ』と合わせて鑑賞する動きもありました。映画監督の綿井健陽は、この映画と、教育用ビデオとしてリメイクされた『捕鯨に生きる』と合わせて見ることで、日本人とクジラの歴史や関係性について深く考えられると述べています。

映画の受賞と評価

『鯨捕りの海』は、1998年のベルリン国際映画祭で試写され、海外映画祭からも招待を受けました。また、芸術文化振興基金助成映画に認定され、キネマ旬報文化映画ベスト・テン第10位を受賞しました。さらに、録音を担当した弦巻裕は、日本映画技術賞を受賞しています。これらの受賞から、この映画の芸術性や技術力の高さが伺えます。

キャストとスタッフ

この映画はドキュメンタリーであるため、出演者は実在の人物です。ナレーションは山川建夫が担当しています。

結び

『鯨捕りの海』は、捕鯨というテーマを通して、人間の営み、食文化、生命の尊厳について深く考えさせられる映画です。捕鯨問題に対する多様な視点を提供し、観る人に新たな気づきを与えるでしょう。

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