鳥尾敬孝

鳥尾 敬孝（とりお あつたか）

1933年9月4日、子爵である鳥尾敬光の長男として東京市小石川区に生まれる。母は鶴代。幼少期には学習院幼稚園に入園し、後に継宮明仁親王（現在の明仁上皇）の御学友に選ばれ、親王と共に少年時代を過ごした。学習院初等科を経て中等科、高等科へと進学。高等科時代はラグビー部に所属し、スポーツに親しんだ。

学習院高等科を卒業後、慶應義塾大学文学部に進学したが、大学は中途で退学。この頃、従兄弟の井原高忠をはじめ、黒田美治、小坂一也、平尾昌晃、堀威夫らと共にウェスタンバンド「ワゴンマスターズ」を結成。後に「オール・スターワゴン」と改名し、当時の日本において勃興期にあったウェスタン音楽、ひいてはロカビリーブームの牽引役の一人となった。彼らの活動は、若者たちの間で新たな音楽ジャンルへの関心を高める上で重要な役割を果たした。

バンド活動から離れた後、株式会社日本ビクターに入社し、音楽業界の実務に携わるようになる。ビクターでは、ハリー・ベラフォンテ、パット・ブーン、ペリー・コモ、テンプテーションズ、ダイアナ・ロス、マーヴィン・ゲイなど、当時の世界的な人気を誇る様々なジャンルの海外アーティストを積極的に日本へ招聘する事業を推進した。これらの活動を通じて、日本の音楽市場における洋楽の普及と発展に多大な貢献をし、「洋楽の草分け」とも称される存在となった。

特にカントリー・ミュージックに対する情熱は深く、その普及にも尽力した。1972年には、有志と共に大規模なチャリティーコンサート「カントリー・エクスプロージョン」を日本武道館で開催。アメリカからテックス・リッター、ワンダ・ジャクソン、コニー・スミスといった著名なカントリー歌手を招き、本場のカントリー音楽を日本に紹介した。このコンサートの収益金は、国際連合児童基金（UNICEF）を通じて、当時貧困や食糧難に苦しんでいたバングラデシュの子供たちの救済のために寄付され、音楽を通じた国際貢献を実現した。

長年にわたるカントリー・ミュージックへの貢献は国際的にも評価され、日本人としては初めて全米カントリー・ミュージック協会の理事に就任するという栄誉を得た。また、米国テネシー州からは名誉市民の称号を授与されている。これらの事実は、彼が日本の音楽シーンのみならず、国際的な音楽交流においても重要な役割を果たしたことを示している。

実業家としては、日本ビクターグループ内で要職を歴任。ビクター音楽出版株式会社社長や株式会社ビクター芸能代表取締役を務めたほか、ポリドール株式会社常務取締役、渡辺音楽出版株式会社取締役なども兼任し、音楽ビジネスの多角的な分野で手腕を発揮した。

1990年10月18日、神奈川県葉山の自宅にて、急性心不全のため急逝した。享年57歳。ウェスタンバンドのメンバーとしてステージに立ち、その後は音楽ビジネスの最前線で国際的な活動を展開するなど、多様な顔を持った実業家であり、日本の音楽文化史にその名を刻んだ人物である。

もう一度検索