鶴岡政男

鶴岡政男：人間の根源を追求した孤高の画家

鶴岡政男（1907年2月16日-1979年9月27日）は、20世紀日本の画壇に独自の足跡を残した画家です。群馬県高崎市に生まれ、晩年は東京台東区谷中で過ごしました。彼は人間の根源を極限まで追求した画風で知られ、その表現方法は当時の美術界に大きな衝撃を与えました。「事ではなく物を描く」という彼の主張は、従来の美術観念を覆すものであり、今もなお議論を呼び続けています。

彼の作品は、抽象画の強い印象が特徴的ですが、具象的な作品も数多く残されています。代表作として挙げられるのは「髭の連作」、「落下する人体」、「夜の祭典」、「喰う」、「重い手」、「リズム」などです。これらの作品は、彼の独特な視点と表現力によって、見る者に強い印象を与えます。独特の画風は、人間の存在や心の深淵を鋭くえぐり出すような力強さと、同時に繊細な表現が融合しています。

経済的な苦労は生涯にわたって彼につきまといました。作品を売って収入を得ることをほとんどせず、生活のためには焼き鳥屋台の経営や衣装デザインの仕事など、様々な職を掛け持ちながら絵を描き続けました。晩年にはほぼ失明状態となりましたが、それでもなお、病院のベッドの上で絵筆を握り続けました。その創作への情熱は並々ならぬものであったと言えるでしょう。

鶴岡政男の画業は、いくつかの重要なグループ活動に関連付けられています。1923年頃には太平洋画会研究所で絵画を学び、1931年には井上長三郎らと共にNOVA美術協会を結成しました。1943年には松本竣介、靉光らと新人画会を結成し、戦後は自由美術家協会に合流するなど、時代の美術潮流の中で活動を展開しました。彼の活動は、様々な美術団体との交流を通じて、彼の芸術観や画風が形成されていったことを示しています。

彼の功績は数々の受賞にも表れています。1954年には第1回現代日本美術展で佳作賞を受賞し、1963年には第7回日本国際美術展で優秀賞を受賞しました。これらの受賞歴は、彼の作品が美術界において高い評価を得ていたことを証明しています。

鶴岡政男の生涯と作品は、三田英彬による評伝『芸術とは無慚なもの　評伝・鶴岡政男』（山手書房新社、1991年、第2回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞）や、鶴岡美直子による評伝『ボタン落し　画家鶴岡政男の生涯』（美術出版社、2001年）など、多くの文献で詳しく紹介されています。これらの評伝は、彼の複雑な人生と揺るぎない創作への情熱を描き出し、彼の芸術をより深く理解する上で重要な資料となっています。1988年には『寓意像　鶴岡政男素描画集』（パルコ出版）も出版されており、彼の多様な表現技法を知る上で貴重な資料となっています。

鶴岡政男は、経済的な困難や健康上の問題にも負けず、生涯を通じて絵筆を握り続けました。彼の作品は、時代を超えて多くの人々に感動を与え続け、現代美術史において重要な位置を占めています。彼の生き様と作品は、芸術家の魂の在り方について、多くの示唆を与えてくれます。

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