靉光

靉光：異端の画家、その生涯と芸術

靉光（あいみつ、1907年6月24日 - 1946年1月19日）は、20世紀前半の日本を代表する洋画家の一人です。本名は石村日郎（いしむらにちろう）。シュールレアリスム風の作風や、宋元絵画の影響を受けた独特の画風で知られています。しかし、彼の生涯は、数少ない作品、戦争の影、そして悲劇的な死によって彩られた、短いながらも激動の人生でした。

生い立ちと画家の道

1907年、広島県に生まれた靉光は、幼少期を広島市で過ごしました。高等小学校卒業後、印刷所に奉公し、製版技術を習得。その後、大阪の天彩画塾で絵画を学び、画家への道を歩み始めます。この頃、靉川光郎（あいかわみつろう）と名乗り、後にそれを略した「靉光」を画名として用いるようになりました。

17歳で上京した靉光は、谷中で生活しながら太平洋画会研究所で研鑽を積みます。フランス近代絵画の影響を強く受け、彼の作風はめまぐるしく変化していきました。1926年には二科展に入選し、以降、「池袋モンパルナス」と呼ばれた活気ある芸術地区で創作活動を続けました。

前衛的な画風と評価

1930年代に入ると、靉光の画風はさらに変化し、前衛的な作品が増えていきます。二科展、中央美術展、独立展などに出品し、数々の賞を受賞。1936年には独立美術展に『ライオン』を発表し、以後2年間、ライオンをテーマにした連作を制作しました。1938年には代表作である『眼のある風景』を独立美術展に出品し、独立美術協会賞を受賞。この頃より、シュールレアリスムの影響が顕著となりつつ、宋元絵画の様式も取り入れるようになります。

彼は、福沢一郎らと共にシュルレアリスム運動家のグループ「美術文化協会」を設立。1943年には「新人画会」にも参加し、主要メンバーとして活躍しました。この頃、自身の自画像を３作制作しています（『自画像』、『梢のある自画像』、『白衣の自画像』）。

戦争と死

1944年、『白衣の自画像』完成直後、靉光は応召され、中国大陸へ渡ります。兄への手紙には「ようやく戦時下の男になれそうです」と、複雑な心境が綴られています。南京、武漢方面で戦火を経験したと伝えられています。

1945年8月6日、広島に原爆が投下され、彼の故郷、そして彼が広島に残してきた作品や資料の多くが焼失してしまいました。終戦を迎えた後も、靉光は中国に残留。1946年1月19日、上海郊外でマラリアとアメーバ赤痢により、39歳の若さで亡くなりました。遺族のもとに残されたのは、友人が送った飯盒のみでした。

晩年の評価

生前、独特の画風から画壇の主流からは外れ、「異端の画家」とも呼ばれた靉光ですが、没後、彼の作品は、日本における油彩表現の到達点として高く評価されるようになりました。2007年には、生誕100年を記念する回顧展が東京国立近代美術館で開催され、多くの人々にその芸術が再認識されました。彼の短い生涯は、数少ないながらも力強い作品群とともに、今もなお人々の記憶に刻まれています。

主な作品

眼のある風景
ライオン
自画像
梢のある自画像
白衣の自画像

関連項目

シュルレアリスム
幻視芸術
幻想絵画

もう一度検索